コラム『カシオペイア』(アーカイブ)第6号
桜の木の移ろいに感じる
桜井義維英
2020.5.14
気が付けば、桜の木はすっかり緑になっていました。
散歩に出れば、カラマツ林の緑が日ごとに濃くなっていきます。
こんなに日々の自然の変化をここで見続けたのは、引っ越してきて初めてのことだと思います。
桜のつぼみが開き、満開になり、散っていく様を毎日見続けました。
けれど、いつもならばワクワクする、そんな春の移ろいを、いつものように感じることができませんでした。桜も何か物悲しく散っていったように思えてしまいます。桜そのものは、いつもと変わることなく咲いたのに、見る側の、私の心がその風景を違ったものに見てしまったのでしょう。
こうして、新型コロナウイルスは、人に感染して病にするだけでなく、私の心を蝕んでいるのかもしれません。
国民全体が、そんな風に、心に灰色の靄がかかったような状態になっているのかもしれません。その靄を濃くするように、ネガティブな情報が次から次へと入ってきます。
しかし、なかなか気分転換ができない状況でもあります。
そんな時は、お子さんとともに、近くを散歩してみてはいかがでしょうか?
そこには、必ず、自然の移ろいを見つけることができるはずです。
コンクリートの割れ目から顔を出し、頑張って咲くタンポポや、一生懸命に働くアリたち。木々は、次から次へと若葉を芽吹かせていきます。
普段なら、そんなことを気にして歩くことはしないでしょう。
今なら、貴方の心ひとつで、子どもの興味に時間をかけて、立ち止まってあげることもできるのではないでしょうか。
毎日、同じ道を歩き、日々の変化に小さなときめきを感じ、そのまなざしが、優しさにあふれるよう、寄り添ってあげてほしいのです。
毎日、違う道を歩き、新しい発見にワクワクし、新しいものに向かって行動する勇気を後押ししてあげてほしいのです。
そこでは、子どもたちが失いかけていた、自然を見ることができる心の眼を取り戻し、生き物への優しい眼差しを手に入れることができるのです。
そして、その心の眼で、友達や家族の変化をも敏感に見いだし、感じ取ることができるようになるのではないでしょうか。
それは、人を見る優しさにつながっていくと思うのです。
この新型コロナウイルス感染症の蔓延を、自然を見る目を通して、人としての優しさを手に入れるチャンスにできるのではないでしょうか。いいえ、ぜひしてほしいと思います。
ゆっくりゆっくりと、子どもの興味の赴くまま、道草散歩に付き合ってあげてください。
2020年5月4日記
桜井義維英