コラム『カシオペイア』(アーカイブ)第72号
防災キャンプ
桜井義維英
2021.9.22
最近は「防災キャンプ」という言葉をよく耳にします。
災害を防ぐキャンプか~
まあ、その言葉の意味にも若干感じるものがありますが、そこは置いておいて…
キャンプって、防災に役に立つのでしょうか。
答えは、『ハイ』です。
でもね…今起きている災害って、多種多様というか、いつどこで襲い掛かってくるかわからない感じですよね。
ゲリラ豪雨、地震、台風…。
天災だけではなくて、テロみたいなものも災害と言えるかもしれませんよね。
そんな災害に遭遇したとき、私たちはどうすればいいのでしょう。
まず、その災害が、どの程度かによるのではないでしょうか。
東日本大震災のように…
津波で何もかもが飲み込んでしまって、何もなくなってしまう。
自分は着の身着のままで避難所にいるという状況。
ゲリラ豪雨で…
近くの川が氾濫し、家が床下・床上浸水して孤立してしまう。
川が氾濫して道が寸断され、自分の家がある地域が孤立してしまう。
台風で…
木が倒れて電線が切れ、電気が来なくなってしまう。
と、色々な状況が考えられますよね。
そして、この数々の状況は、家にいるときに起こるとは限りませんよね。
仕事に出ているときに被災することも、十分にあり得ることですよね。
さてそんなとき、防災キャンプでするような事が、どれだけ役に立つでしょうか。
まず、家で被災したときにできる色々な工夫は、きっと役に立ちます。
次に、避難所での数々の生活の整え方も、役に立つでしょう。
できれば、実際に自分が避難する避難所にある災害備蓄品で体験する防災キャンプなどがあれば、ぜひ参加しておくのがいいでしょう。
段ボールベッドの作り方とか、プライベートエリアを確保するテントの立て方とか、レトルト食品での炊き出しの仕方とかですね。
では、ブルーシートでテントを作るとか、メタルマッチで火を起こすといった技術は、役に立たないでのしょうか。
いいえ、そんなことはないのです。
そういうことででも、生きていけるという自信が、被災したときに、前向きに生きる行動を起こすエネルギー源になると思うのです。
お判りでしょうか。
防災キャンプには2つの目的がある
ひとつは、避難所などで暮らしていくのに役に立つ具体的な技術や情報を伝えておく。もうひとつは、被災したときに、それでも前向きに生きていくという姿勢を生み出すエネルギー源を作る。
この2つの目的を、ひとつのキャンプで達成することができれば一番いいのでしょうが、なかなか難しいかもしれません。
特に、前向きなエネルギーを生み出すというのは形に見えないし、成果も見えにくいから難しいでしょう。
しかし、いくら技術があっても、被災したときに毛布にくるまってうずくまってしまうようでは何にもならないでしょう。「生きるのだ!」というエネルギーを持つ人を、育てなくてはいけないと思います。
もう一歩踏み込んでいえば、「死んでたまるか!」という気持ちです。
出先で被災したときのために
しかし、私が一番心配するのは、出先で被災することです。東日本大震災の時にも、東京で多くの人が帰宅難民化しました。
東京は直接津波が襲ったりしたわけではないのにです。
これが、東京に震災が来たりしたら、いったいどうなるのでしょう。
そんな時のために、今私たちは、普段背負っているデイパックの中に、どれだけ被災した時の備えがされているかということが大切なのではないでしょうか。
私も最近は八ヶ岳に引っ込んで都会を歩くことがなくなり、そのような備えをおろそかにしています。
この原稿を書いたのをきっかけに、普段持ち歩くデイパックの中に、何を備えるかをもう一度考えなくてはいけないと思っています。
小さなライトや、携帯の充電器、アルミブランケット、簡易トイレ、軍手、簡単な救急用品、ウエットティッシュやタオル、とかでしょうか。
食料や、水といったものは、普段使いの物を使いまわすというか…帰ったら、食べたり飲んだりするというようなサイクルを作るといいのかもしれませんね。
靴はどのようなものを普段から履くかとか、着るものはどんなものがいいとかも、防災の観点から選ぶといいのかもしれません。
おしゃれとは少し遠のいてしまうかもしれませんが。
自然体験の活動者として
そして、自然体験活動をしている人たちの自負として、被災したとき、どれだけ他の人の役に立つことができるかを考えたいですね。避難所をどれだけ快適にするかとか、衛生を保つとか、お互いが心安らげるようにするとかを率先して行動したいものです。そのためには、普段から、キャンプの中でも原始的なキャンプをするような技術を身につけておく必要があるでしょうし、人との関係を良好にする技術と、人格を醸成しておかなくてはいけないでしょう。
そして、少々のことではへこたれない体力。
そして何よりも、誰よりも前向きに生きていくという姿勢を持ち続けるためのエネルギー源を持つことが大切なのでしょう。
これは一般の人たちのそれと違い、自分が生きていくというよりはみんなと生きていくということですから、そのエネルギー源も違うはずです。
それはきっと、人のために生きるという思いなのではないでしょうか。
そして、私たちは、先にあげた「生きるんだというエネルギーを持った人」を日常的に育てることが一番大切なのだと思います。
そのために自然の中での体験は最適だと思うのです。
ただし、いきなり原始的なキャンプをすることは、キャンプ嫌い、自然体験嫌いを育てることになりかねません。
そこで、先回のDIYキャンプのようなものからスタートするといいのだと思うのでした。