コラム『カシオペイア』(アーカイブ)第69号
アウトドアの未来を考える
徳田真彦(大阪体育大学)
2021.9.1
現在、私は大学のカリキュラム改革に携わる立場にいます。その中で、これからの社会を考える機会が多くあり、必然的に自身の専門分野でもある、「アウトドア」や「野外教育」の未来を考える機会が増えています。考えても考えても、「アウトドア」や「野外教育」の 未来のビジョンは固まりきらないですし、その道のりも全く具体的ではないのですが、今考えていることを述べたいと思います。
私はアウトドア業界の未来に、とても明るいビジョンを持っています。そして、その明るい未来に欠かせないキーワードは、「産業」「教育」「自然」の3つです。これら3つは互いに連動し、同時並行で発展していかなくてはならないと考えています。
まず、「産業」という観点から話をすると、矢野経済研究所調査によると、2020年の国内のアウトドア市場規模(用品、施設、サービスの合計)は、4895億円(予想)となっています。コロナの影響で2019年の5169億円から約270億円減と予想されていますが、キャンプを含むライトアウトドア市場は微減にとどまっており、マイナス基調はコロナによる一時的なもので、アウトドア市場全体では、今後数年は増加基調が続くと予想されています。
また、少し視点を変えると、現在mont-bellやSnow Peakといったアウトドアメーカーが地方創生と市場拡大を掛け合わせ、地方にキャンプ場やアウトドアショップを設立したり、自然体験活動を提供する動きが見られています。都市部にはない「自然」という資源を有効活用することに、地方創生の一つの方法としてとても可能性を感じています。以上のことからも、産業という点では、アウトドア市場は増加していき、自然の活用次第でこれからも発展的に進む未来が想像できます。
一方で、現在のアウトドア産業の発展に伴う、商業化の危険性を感じています。端的に言うと、アウトドアをただの金儲けのためのツールとして使われてしまうことです。そうなってしまうと、「持続可能な」アウトドア産業の発展は見込めないどころか、環境破壊といった地球規模の課題に大きな拍車をかけてしまうことになります。だからこそ、「教育」も同時に発展していく必要があります。それは、自然の中で遊ぶことの楽しさや意義、その裏にある危険性を正しく理解すること。自然への感性を養い、自然と自身の在り方や関係性を学ぶこと。これから自然に関わる人へ自然との関わりについて正しく伝えられることなどが考えられます。これらは何も指導者だけではなく、これからの社会を生きるすべての人が実践できる未来が必要であると思います。そして指導者は、プロフェッショナルとして高い次元でそれらの教育ができなければならないという責任を、感じなければならないと思います。
最後に、「自然」というキーワードですが、これはキーワードというより前提といった方が良いのでしょう。そもそも、「自然」が無ければ産業どころか、地球そのものが成り立ちません。ですので、今社会にある「人間中心」的な考え方から、少しでも「自然中心」に考える未来が必要であるように思います。現在待ったなしで、地球温暖化をはじめとする気候変動が進んでいますが、美しい自然をこれから先もずっと残していく強い意思を、「産業」や「教育」の発展に乗せて、養っていかなければならないと思います。
さて、ここまでまとまらない話を続けてきましたが、本件についてぜひ皆様と一緒になって話し、考えていきたいと考えています。私は、「産業」と「教育」を同時並行で発展させることによって、「自然」をより良い形で未来に残していくことが可能となり、「自然」を残せることで、「産業」が発展し、より高度な「教育」を行えるようになると思います。この好循環を生むことができれば、きっと明るい未来が待っているように感じています。いや、明るい未来を創らなければなりません。
ぜひ一緒に未来を考え、悩み、実践していきましょう。
参考
株式会社矢野経済研究所:「アウトドア市場に関する調査2020」