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コラム『カシオペイア』(アーカイブ)

コラム『カシオペイア』(アーカイブ)第81号
理論よりも大切なこと
徳田真彦(大阪体育大学)

2021.12.1

先日、私が担当している「野外教育論」という講義後、学生達からこんな質問をもらいました。
「今日習ったことはあくまで理論で、大抵当てはまるかもしれないが、徳田先生の経験、主観から理論とは違うなと思ったことを教えてほしい。」(ちなみにこの日の授業内容は、グループディベロップメントとリーダーシップ理論でした)。
この質問への回答を考える中で、多くのキャンプを思い出しました。その中で、質問の回答とは少しずれるのですが、とりわけあるキャンプが強く思い出されました。

6年前の話になりますが、「小豆島をリヤカーで1周する」という6泊7日のキャンプを実施しました。0から指導教員や後輩たちと創り上げ、集客戦略の立案、実地踏査、事前説明会、モチベーションビデオの作成など、自分たちの持てるすべての力を使って準備し、当日を迎えました。「キャンパーのために(=キャンパーズファースト)」と、スタッフの中でも日々確認し続け、キャンパーにもその熱や想いは伝播し、最終的には小豆島一周を成し遂げ、最高の形で終了することができました。

と、ここまで美談のように話をしていますが、この時私は、無事に終えられた安堵感とともに、強い後悔の念を持っていました。それは、スタッフ同士が真の「仲間」になり切れなかったという思いがあったためでした。特にスタッフ間の関係が悪かったわけではなかったのですが、なぜそのように感じてしまったのか、しばらく悩みました。今でも定期的にその事を思い出しますが、私の中では少し理由が見えてきたように思っています。
そもそも共に活動をしたスタッフは、それまで何度も一緒にキャンプ活動や理論の勉強をしてきた気の置けるメンバーでした。準備段階からキャンプへの「想い」も共有されている実感があり、事実キャンパーへの向き合い方には皆相当の熱量がありました。毎夜のミーティングでは、キャンパーにどのように関わるのか、グループディベロップメント※1やリーダーシップ理論※2の確認など、多くの議論をしました。時には議論がヒートアップする場面もありましたが、キャンパーのためにと、互いの本当の気持ちを飲み込んでいました。しかし今思うと、「キャンパーのために」という想いに囚われるばかりに、支え合うことや思いやる気持ちなど、そういった互いの信頼を育む部分をおざなりにして、自身の役割のみに集中しすぎていたように思います。その結果、キャンパーは大満足の様子でしたが、我々はというと、どこかすさんだ気持ちを持って、子どもたちを見送ったのを覚えています。少なくとも、私はスタッフのそんな雰囲気を感じていました。

冒頭の学生達の質問に戻りますが、私自身「理論とは違うな」と思うことはもちろんありますが、これまで多くの研究の積み重ねで得られた理論には、大抵の場合当てはまることが多く、野外活動や教育を実践する中では、やはり学んでいたほうが良いと強く思います。一方で、いくら理論を理解し、卓越した指導技術を持っていたとしても、そのスタッフが「仕事や業務、役割で繋がる仲間」なのであれば、最大限のパフォーマンスを発揮することはできないと思っています。ではどのような仲間が良いかというと、私は「想いで繋がる仲間」と言っています。青臭い言葉ですが、協同していく中で、やはり根底には信頼や尊敬、思いやりや気遣い、そんな温かい想いが必要なのだと思っています。

人の心は生き物です。その時々で移ろい、小さなきっかけで変わることもあります。そういった繊細なものだからこそ、理論に当てはめることは困難で、想いで繋がる仲間になる具体的な方法はどんな教科書にも載っていません。だからこそ、理論(頭)ではなく心で、互いに向き合わなければならないのだと思います。そして、走林社中メンバー、モモの部屋メンバーは2045年という長く険しい道のりを共に歩むメンバーだからこそ、「想いで繋がる仲間」でありたいと強く思います。

※1 Group Development理論:グループの成熟過程をForming, Storming, Norming, Performing, Adjourningといった段階に分け、それぞれの成熟段階の特徴を知ることで、グループの成熟段階を評価することに役立つ。その評価をもとに、指導者としてどのような関わり方をすればよいのかを判断する(リーダーシップ理論との関連が深い)。
※2 Situational Leadership理論:チームの習熟度や状況に合わせてリーダーシップスタイルを変える必要があるという理論。援助的行動、指示的行動の2軸からTelling, Selling, Participating, Delegatingといった4つのリーダーシップスタイルを提唱している。今日では、より野外現場に適応させた、Conditional Outdoor Leadership Theoryも提唱されている。 

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