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コラム『カシオペイア』(アーカイブ)

コラム『カシオペイア』(アーカイブ)第64号
考える葦
稲松 謙太郎(NPO法人国際自然大学校)

2021.7.28

「人間は、自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない。しかしそれは考える葦である」
この言葉は、17世紀フランスの思想家パスカルの言葉です。彼の代表作「パンセ」の有名な断章の冒頭で述べられています。
日本大百科全書によれば、【広大無辺な宇宙に比べれば、人間は無に等しく、「一茎の葦」のごとく弱く悲惨な存在にすぎないが、それは「考える葦」であり、思考によって「宇宙を包む」ことができ、ここに人間の尊厳があり、偉大さがあるという。
このような偉大と悲惨、無限と無という相矛盾しあう二律背反のなかで揺れ動く人間の存在を、パスカルは「考える葦」という言葉で象徴させているのである。なお、この句は聖書の「傷ついた葦」(「イザヤ書」「マタイ伝福音書」)に由来する】と解説されています。

ここのところ、大きな自然災害により、人命が奪われる事故が続いています。
例えば、熱海市伊豆山の土石流は、2021年7月3日午前10時ごろに発生し、三週間を迎えた今(7月25日現在)では、21名の死者と6名の行方不明者、130棟以上の建物に被害があり、一時、550名を超える避難者もでた直近では「大きな自然が関係する災害」と言えるでしょう。
ただしこの災害については「盛り土」の問題も浮上しているので、果たして本当に自然災害なのかと言った意見もあることは間違いないと言えます。

地球温暖化における「夏季の気温上昇」も自然災害により、多くの人がリスクにさらされる事柄のひとつであると言えます。最近では、東京でも猛暑日を超える日もあり、2020年8月の平均最高気温は35.7度、平均気温は29.0度だったそうです。
私が小学生の頃、1989(平成元)年は平均最高気温が33.0度、平均気温が27.1度ということですから、2度くらい暑くなっているということが統計からもわかります。
そんな中、エアコンの普及率も63.3%(1989年)から92.2%(2021年)に上昇し、暑さに慣れていない人も増加しているということですから、なおさら暑さというリスクが大きくなっている昨今です。

さて、前置きが長くなりましたが、先日子ども向けのプログラムをしているときに、気づいたことがありました。私の勤めている国際自然大学校は現在、オレンジ色のベストを着て活動しています。また、スタッフのドレスコードは襟のついているものを着ることとなっています。このことにハッとしたのです。
参加者のご家庭には、「日中の活動中は、暑くなりますので、できるだけ涼しく過ごせるように工夫した格好でご参加ください」といった内容の案内をしていますので、子どもたちはTシャツや短パンで活動していました。一方スタッフは、襟のついた綿のポロシャツに長ズボン、そしてユニフォームのベストをきっちり着用して活動していたのです。
もちろんドレスコードがあることやユニフォームを着用する利点や理由もきちんと理解をしているのですが、今回のスタッフの格好はとても不自然でプロとして活動する我々がこれではいけないと感じたのでした。
何よりもこれが「当たり前」になってしまっていて、疑問に思わず、問題点に気づけなかった
自分にとても腹が立った瞬間でした。


それと同時に同僚たちともこの気づきをシェアし、改善を図っていかなければと強く感じました。
自然は大きく抗えない力を持っていることは間違いありません。
地震や台風、豪雨などの自然災害はなくなりません。それどころか今後は今までになかったようなことが次々に起こるかもしれません。
しかし、自然の特性を理解して、それと共存し、強みとして活かし、世間が必要としている体験としてコーディネートしていくことができる指導者がいることで、安全で効果のある教育として自然体験から最大限に学べる時が産み出せるのだと思います。またそれは、普段の生活をより豊かにしていくために必要な力だと思っています。

先日、「当たり前」から目を覚まさせてくれた活動場所は、国際自然大学校で「のあそび」と呼ばれる活動を長年にわたり開催してきた多摩川の河川敷でした。
2019年の台風19号で全部が流されてしまい、安全な場所に戻すための工事が活動日の少し前まで行われていました。
およそ2年ぶりに子どもたちのあそび場として帰ってきたその場所で、何かを感じたのも自然からのメッセージだったのかもしれません。
一人の人間は、自然の驚異からしたら「葦」ほどの強さしかないのかもしれません。
でも思考し続けること、解決し、豊かになっていこうとするその希望には、無限の可能性が広がっているのだと思います。
これからやってくる2021年の夏本番も「考える葦」として楽しんできたいと思います。
自然による大きな災害が起こらないことと素敵な夏になることを祈って。

2021年7月28日
走林社中/幹事
稲松謙太郎

コメント

No.1   ロッキー

エアコン普及率92%なのですか!我が家、8%に入りました。今夜は雨も降っているので、窓を開けていると寒いくらいです。子ども達は日中ほぼ近所の川遊びに行っています。朝10時から17時近くまで。友達と一緒に、もちろん保護者同伴です。川にいかないときは、家の風呂に水をはって、水浴びをしょっちゅうしてます。夕方は、水遊びで冷えた身体を温かいお風呂で温めます。その後、大量の汗が出ますが、この汗によって身体が適温になり、肌はサラサラになり、夜は快適です。暑い夜でも、今のところ朝まで熟睡です。
お陰で、身体が自然に適応し、自然と整うようになってきました。子ども達もそうです。

人が作り変えてしまった都会では、やはりエアコンをつけるなど人が手を入れないと厳しいと思います。でもそれも自然なことですよね。

自然を感じるようにする事で、身体が自然に適応、進化していくのかもしれません。自分の身を持って、引き続き実験してみます。もっと暑くなったら、木々の風が吹き抜ける森の中に住もうかなー。

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No.2   桜井義維英

No.1への返信

いつもありがとうございます。
汗をかきやすい体は、大切なんでしょうね。
汗をかかないと体温調節もなかなか難しいのでしょうから。
もしかすると、エアコンの普及は、自分で体温調節ができない人間を育てることになっているのかもしれませんね。

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