コラム『カシオペイア』(アーカイブ)第65号
街中での体験
桜井義維英
2021.8.4
自然体験というと、自然が豊富にある山の中や、海辺に出かけて行うことを想像しますね。
よく覚えていないのですが、国際自然大学校を立ち上げる時ご挨拶に行ったある先生に、「都会の子どもたちを野山の中に連れて行ってキャンプするのは簡単なことだよ。田舎の子どもたちを都会に連れてきてキャンプすることも考えてみてほしいな。」というようなことを言われました。
チョット衝撃的でした。しかし、その提案は残念ながら今も実行できていません。
それは、どんな目的ですればいいのか。
目的が設定できたとして、果たしてその目的はどんなプログラムをすることで達成することができるのか。
仕事として成り立たせるにはどうしたらいいか。と、なかなか難しいことがたくさんありました。
また、それとは別に、国際自然大学校の理事長をしていらっしゃる佐藤さんからこんなお話を伺ったことがあります。
アメリカのコロラドでOBSの研修を受けている時、いくつかの課題を渡されて、あとは公衆電話一回分の小銭だけを持たされて街中に放り出されたそうです。
面白いと思いました。
目的や、安全管理などは何も伺いませんでしたが、そんな活動も面白いと思い、国際自然大学校でも実施したこともありました。
今考えると、ちょっと危ない事故事件もありました。
それを、シティーチャレンジと名付けました。
この活動は、100キロチャレンジ、クロスカントリー、ビバークとセットで行い、「アウトフィッターコース」と銘打っていました。
この4つの活動の中では、一番完成度が低いものだったかもしれません。
田舎の子どもが都会で行うキャンプの、頂上プログラムになるほどのクオリティーやノウハウへは積み重ねられませんでした。
しかし、この4つで図のような仕組みも考えました。
このシティーチャレンジでどんなことをしていたか少しお話ししましょう。
まず、緊急連絡用の手段…初めは10円でしたが、それがテレホンカードとなり、携帯となりましたが、これは持たせました。
そして課題は、「お昼を手に入れてこい」とか、「法にかかわる人にインタビューする」とか、「10年以上同じ仕事をしている人にインタビューする」とか、「都市の機能が変わる境目を見つけろ」とかいうものでした。
インタビューの類は多かったように思います。
一番インパクトがあったのは、「お昼を手に入れろ」というものでした。
都会で、お金で買わずに食べ物を手に入れるのは結構な難問です。
もちろんグループで行動し、走ってはいけません。お金を持っていませんから乗り物に乗ることもできません。
はじめは一人でさせたり、一昼夜を超えて行ったりしていました。
しかし色々あって、朝出発して昼過ぎまたは夕方までという時間に収まりました。
ここにどんな目的があるかというと、仲間同士の絆や役割分担とかはもちろんですが、都会というものを、肌身をもって感じることが大きな目的だったように思います。
それは、都会…というよりは都会の人たちといった方がいいかもしれません。
インタビューで、都会の人の反応と、その話の中から都会というものを感じることはできたと思います。もちろん食料を手に入れる過程でもです。
しかし、先にも申しあげたように、100キロチャレンジやビバーク、クロスカントリーに比べて、一番完成度の低いものだったように思います。
完成度というより、研究が進まなかったものという方がいいかもしれません。
今考えると、それは都会にいる者が、都会で活動していたからかもしれません。
しかし、今こそ、このような活動が重要なのかもしれません。
その理由は2つあります。
ひとつは、先にもお話しましたように、田舎の子どもたちに都会を体験させ、自分たちの住む地域の暮らしに自信を持たせ、誇りに思えるようにするということです。
そのためには、自分たちの住んでいるところで生産されたものが、都会へ出ていって、いかに都会の人たちを助けているかというようなことを体験するといいのかもしれません。
そしてもうひとつは、都会に住む人たちに、自分たちの暮らしが起こしている問題にきちんと向い合せるということでしょう。
都会の人たちは、あまりに自分の生活の中の汚い部分から目をそらして暮らしているように思えてならないのです。
都会は、見たくないもの・見ようと思わないものは見なくても済むような仕組みになっています。
たとえば、自分たちが出すごみがどのように処理されているかとか、自分達の飲む水がどこから来ているかとか、電気がどこから来ているかとかといったことを、ちゃんと体験的に見てみる必要があると思うのです。
今申し上げたようなことは、川上と川下の人間が同じことをそれぞれの場所からたどる活動と言えるかもしれません。
まだ、そのプログラムをどうしたらいいかということは思いつきません。
しかし、まったく違う活動で『ロゲイニング』という、オリエンテーリングから発展した活動があります。
ロゲイニングのように、カメラやスマホをもっと活用するのも有効な方法だと思います。
ぜひ若い皆さんが、新しい活動として作り上げてくれたらうれしいなと思います。