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コラム『カシオペイア』(アーカイブ)

コラム『カシオペイア』(アーカイブ)第61号
歩く活動
桜井 義維英

2021.7.7

人間の特徴のひとつに『二足歩行』、すなわち二本の足で歩くことが挙げられます。
二本の足で歩くことができるようになった結果、二本の腕が自由になり、道具を作ったり、火を扱ったりすることができるようになりました。
そして、もうひとつの特徴が『言葉を持った』ということでしょう。
このふたつの特徴を存分に味わう活動が『歩く活動』です。
私は歩く活動をふたつに整理しています。
ひとつは、高さを求める活動。
もうひとつは、長さを求める活動です。
高さを求める活動とは、言わずもがな「登山」です。
そして、長さを求めるものの代表が「100キロチャレンジハイク」です。
この長さを求める活動は、安全を確保できる道で、ある程度平たんな道ならば、誰もが、それほど多くを考えることなく歩くことができます。
そんな道は、一緒に歩いている人と、たくさん話をすることができる時間があります。歩いている時間が長ければ長いほど、話をすることができるのです。
逆に言うと、トイレ休憩や食事休憩以外は、歩くことしかない。そして、歩いているときに、音楽を聴いたり、スマホを見たりすることを禁じれば、あとは、一緒にいる人と話すことぐらいしかすることがなくなってしまうのです。
ですから、100キロチャレンジハイクのプログラムで重要なのは、グループで歩くということなのです。そして、そのグループで歩き通すということなのです。
つらいとき、苦しいとき、話しをして、その困難を乗り越えるのです。
歩くことにこだわる活動ですから、走ってはいけないということにします。走るというのは、歩くことに比べ、個人の能力差が大きくなります。ですから、歩くことを必須とします。
これによって、男性でも、女性でも、大きな人でも、小さな人でも、若くても、年寄りでもチャレンジできる活動となります。
もちろん、歩く時間が長くなれば、食事やトイレ以外に、睡眠時間も含まれるようになります。ないしは寝ずに歩くということになります。そうなると、やはり、子どもが歩き続けることができる時間の長さは、ある程度限られてきます。
そんな時は宿泊が伴うかもしれません。もちろんそれもいいと思います。
国際自然大学校で行っている100キロチャレンジハイクは、成人を対象に3~4人のグループで一昼夜を通して、寝ずに歩き続けるというものになっています。
子どもたちには、30キロや50キロに距離を縮めて活動を行っています。

さて、ここで少し視点を変えて、これらのチャレンジハイクの運営についてお話ししましょう。
このコースはどのように作るのでしょう。
まず第一に考えなくてはけないのは、安全の問題です。歩くとき、時としてぼーっとなるときもあります。そんな中でも安全を確保できるかということが重要です。そのためには、車が走る道ならば、歩道が整備されていることが重要になります。
また、万が一何かあった時に、救助に車が入ることができる道であることも重要です。
すなわち、車が走れる道で、かつ歩道がある道を選定しなければいけません。
また、その歩道が、できるだけ右側か左側のどちらかで歩き続けることができることが好ましいです。すべては難しいことですが、できるだけ歩道のために道を横断することは少なくした方が安全の向上になります。
このように、コースの設定ひとつにしても、大変難しいものがあります。
次に、そのコースが、できるだけわかりやすいものであることも重要です。
長い道を歩いていると、時として朦朧としてきます。そんな時に、コースを間違ったり、見失ったりしないためにです。

そしてもうひとつは、歩き切った後「私はこれだけ歩いたんだよ」と説明しやすいコースであるようにしてあげることです。
と、いうのは、高い山などは、標高で高さを示すとともに、山の名前で、その高さが順位付けされたり、難易度が社会に知られています。ですから、○○山を登ったというだけで、そのイメージが周りの人にも持ってもらうことができます。
しかし、50キロとか100キロといってもなかなか具体的なイメージがしてもらえません。
例えば、東海道線の東京熱海間は104キロです。といっても、まだイメージしにくいでしょう。
ですから「ここからここまで歩いたのです」と言って、イメージできるようなコースを作ってあげることも大切なのです。

さて、ここまでお話して気づかれた方もいるでしょうが、長い距離を仲間とともに歩くという活動には、ふたつの目的があります。
ひとつは、これだけの距離を歩けたという自信を手に入れること。
もうひとつは、仲間は大切なんだという、人間関係の重要さを身をもって知るということです。

両方とも、とても重要な目的であると思いますが、今このご時世の中で、検討しなくてはいけないこととして、災害時のことがあります。
職場や学校から、自宅まで何キロあるか…。
東日本大震災の時も、都内で、多くの人が帰宅困難者となりました。
歩いて、自宅まで帰らないといけないことが起きるでしょう。
その距離を各人が知ったうえで、その距離をひとつの目標として、100キロを歩くというようなことがあってもいいのかもしれません。
会社の社員研修で、リアルに自宅まで歩くということがあってもいいかもしれません。
同じ方向に歩く人たちでグループを作り、歩き、少しずつゴールして、仲間が減っていくというような活動もあっていいのかもしれません。
ただし、安全の確保とか、その活動の効果などについては、もっと研究が必要だと思います。

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