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コラム『カシオペイア』(アーカイブ)

コラム『カシオペイア』(アーカイブ)第62号
自然体験活動で人間性は回復できるのか
小澤 潤平(NPO法人国際自然大学校)

2021.7.14

 先日、NEWS PICSの番組である「WEEKLY OCHIAI」でスノーピーク山井社長と落合陽一氏の中で、「人間性の回復」について議論していました。その中で、「現代人は文明性の発展により人間性を損失しているため、自然に出て人間性の回復をする必要がある」「93%の人は現代人的な生き方をしているため、自然に触れる機会がない」ということを語られていました。そんな中で、我々は「自然体験活動」の指導者という立場として、何をすべきかを考えました。


 まず「人間性とは?」という問いについて、調べてみると「人間の本性」「人間らしさ」「あるべき理想の姿」というものが多く出てきます。今の人類は、この人間性を損失した生き方をしていると考えると少し怖いです。私自身も参加者の保護者に自然体験活動をお勧めする際には「子どもが子どもらしくいられる場を自然体験活動は提供しています」と説明しています。そんな意味からすると、自然体験活動は人間が人間らしくいられる場であるのかもしれません。そんな定義をした上で、以下の視点から考えました。

 

・子ども達にとっては「人間性の獲得」


 子ども達は今、日常的にデジタルに触れるようになり、家はオール電化で火を見ることがなかったり、仏壇がないから火をつけられなかったり、かつて私が幼い時に体験していたことですら、当たり前ではなくなってきています。そういった意味では、子どもにも文明の波は押し寄せているのだと感じます。しかし、一旦外に出てしまえば、子ども達は純粋に自然の中で遊ぶ、豊かな心を持った姿を見せてくれます。先日、子ども達のワンデイキャンプで多摩川へ川遊びに行きました。、わずかな時間ではありますが、川に浸かって遊ぶときは嬉々とした姿を見せてくれました。

 幼児の子ども達と、川で生き物探しに行ったときも、網とかごをもってガサガサと夢中になって遊んでいました。そんな姿を見ると、子ども達に対して、適度に自然に触れる機会を作ることで「人間性を獲得」することができるのではないかと感じました。

 人間は大人になる過程で、より効率的に、より生産性を上げる方法を目指して、徐々に人間性を失っていくのかもしれません。スマホを持つ年代くらいからは、目線はいつもスマホにいき、下を向いていることでどんどん猫背になり、話しかけても生返事となってしまいます。。こんな姿は、文明性にお侵されている状態といってもいいのかもしれません。

 我々自然体験活動事業者としては、まず子ども達にこの「人間性を獲得」する機会を提供し、さらには青年層に対するアプローチや、人間性を損失している人々にリーチすることが必要なのかもしれないと感じました。


・「7%の自然に触れる人々の多くも、都合の良い自然を求めている」


 それでは、キャンプブームが再燃している今、人々は人間性の回復をどんな風にしているのかというと、我々が思っているようないわゆる自然体験活動をしているわけではありません。キャンプ場でよく目にするのは、電源があるサイトに車を横付けにして、棚があって居住性の高いリビングやテントがあり、そこで焚火をしてのんびり過ごすファミリーの姿です。ただの一例ですがそんな姿がどこのキャンプ場にもあります。

キャンプ場では、サイトを平地にし、シャワーを完備し、トイレもウォシュレットにして、水道は温水も出るようにしています。必死になって整備をしている姿もあります。そんな状況を見ると、日常を非日常に持ち込もうとしているのがよくわかります。

 つまり、キャンプブームの多くの姿は、「人間にとって都合の良い自然」を求めた結果と言えると感じます。それは、前述した子ども達が人間性の獲得をしていくための活動とは大きくかけ離れるような気もします。しかしながら、私はこれはこれでよいと思っています。便利なものに触れすぎている人々に、急に不便な生活を強いることは、あまりに現実的でなく、楽しくありません。

 今のブームに象徴されるように、自分たちがコントロールできる範囲でちょっとずつ始めていくことは、私たち自然体験活動事業者はむしろ歓迎する必要があると感じますし、そんな人々に対して、プログラムや考え方を教えるくらいの気持ちをもって、これからの活動をデザインすべきと感じます。


・93%の人々に我々ができること


 最後に、多くのキャンプなどをしない方々に対しては、どんなアプローチをすればよいのでしょうか。私自身は、まずは、キャンプブームでもいいから、アウトドアの活動に興味をもって、何か始める手助けができればよいと思っています。

 Youtubeの動画からでも、ワーケーションからでも、グランピングからでも、星野リゾートの自然体験ツアーからでも、薪ストーブからでも、焚火からでも、なんでもいいので、多角的にアプローチができればよいのだと感じています。私たち自然体験活動事業者は、上記に関係する団体と連携をして、93%の人々にリーチする方法を考えていくべきで、そのために走林社中では企業連携プロジェクトなど運営しています。


 最近は、「リトリート=本来の自分に戻るための時間」という言葉もあるように、自然にでてストレスフリーになる、という考え方もあるようです。あの手この手でよいので、我々は知恵を凝らして「人間性を回復」させないと、いつか人間でなくなってしまうかもしれません。そうならないように、自然体験活動を普及するところから始めていきたいと思います。


走林社中幹事長
小澤潤平


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