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コラム『カシオペイア』(アーカイブ)

コラム『カシオペイア』(アーカイブ)第78号
修学旅行を域内体験へ
白井 健(NPO法人千葉自然学校)

2021.11.8

先日、地元の中学校の先生から、「修学旅行が中止になってしまったので、なんとか子どもたちの思い出を作ってくれないか」という相談をいただきました。日帰りでしたが、3日間できる限りの体験プランを提示し、無事、子ども達も笑顔で帰ってもらうことができました。
体験内容は、「イニアシアティブゲーム」、「スタンドアップパドル」、「シーカヤック」、「コーステアリング(海岸線を泳いだり岩場から飛び込んだりしながら進むアクティビティ)」です。イニシアティブゲームは初日に全体で行い、残りのアクティビティは、40名ちょっとの生徒を3班に分け、2日間でローテーションしながら実施しました。

色々な方達の想いが結集し地域の大人たちが提供する、修学旅行に代替するアウトドアプログラムが完成しました。プログラムの最後には、関わってくれた大人達から子ども達へ「なぜこの仕事をしているのか」、「やりがいを感じることは何か」など、人生の先輩としてエールを送る時間も作りました。単純に体験をするだけではなく、これからの人生をどう歩むか、ヒントになるような大人達との対話も大切にし、その想いをぶつけていただきました。担当の先生からは、「是非今後も学校の授業として継続的な実施をお願いしたい。」というお声をいただきました。
 
私が住んでいる地域の中学生の修学旅行の目的地は、ほとんどが京都・奈良方面です。おそらく私が中学生(今から約20年前)の頃から大きく変わっていないのだと思います。このコロナ禍をきっかけに、修学旅行を地域内で実施する良質な体験に切り替えても良いのではないでしょうか。遠方への旅行は大人になってからもできるかもしれません。しかし、「地域の子どもに地域の魅力を伝えたい」と想う大人たちが提供する体験はとても貴重なものになるでしょう。
今回の事業を通して、修学旅行を域内体験にしていくべきだと感じた点を以下にお伝えさせていただきます。

1. 子どもたちは自分の地域の自然をもっと知るべき

 自然豊かな南房総ですが、実施後の子どもたちの感想文を見ると、「こんなに海が綺麗で、楽しめるとは思わなかった」「まだまだ知らない自然の風景があった」など、すぐ近くに豊かな自然環境があるにも関わらず、踏み込んだ体験をできていなかったということが読み取れました。感想文の中には、「本来の修学旅行の予定から地元の自然を体験できる内容に変更になって本当によかった」という声もありました。大人になる前に、もっと地域の魅力を知る機会を作ることが必要だと思います。

2. 域内体験が地域の大人の想いを一つにさせる

 今回の受け入れ実施にあたって、地域でアウトドア事業を実施されている方に相談したところ、「地元の子どもたちのためなら、なんとしてもこの企画を成功させよう!」と、想いに共感し協力してくれることになりました。その結果、スタンドアップパドルやシーカヤックなど、私たちだけでは提供できないアクティビティも実施してもらうことができました。他にも、せっかくの機会だから海上から写真撮影をしてあげようと、渡船業を営む方が撮影用に船を出してくれました。「子どもたちのために」をキーワードにすることで、地域の大人たちの想いが一つになり、子どもたちにとっても「地域のかっこいい大人のモデル」として、魅力的に写ったのではないでしょうか。

3. 自然体験活動を学校の授業に導入するきっかけに

 当日、地域新聞社からの取材が入りました。カラーで記事にしていただき、活動の様子の写真も載ったことで地域からの反響も大きかったです。一つの中学校を先行して実施したことで、他の学校も自然体験活動を導入していきたいという声が出てきています。教育委員会からも、「学校の授業の中に自然体験活動を導入していけないか」という相談を受けています。修学旅行を域内の自然体験にすることで、そこまでのプロセスにも自然体験を導入する流れができています。

この地域のために何かしたいと想う人達をつなげ、一つのプログラムとしてデザインしていくことを、自然学校や青少年教育施設が担っていくべきです。子どもも大人も、その想いを共有することで、自分の地域に誇りを持つことができるかもしれません。
さらに、それが地域外、都市部の子どもたちを受け入れる原動力になるのではないでしょうか。都市部の子ども達も、地方で活躍する大人の姿を間近にし、「地方で生きていくのも良いかも」と人生の選択肢が広がるかもしれません。

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