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コラム『カシオペイア』(アーカイブ)

コラム『カシオペイア』(アーカイブ)第94号
人材の育成(その3)…日々の研修
桜井 義維英

2022.3.9

人材の育成(その1)で、読むこと、書くことのお話をしました。
天声人語の要約と読書課題についてです。
読書で知識を蓄え、物を考える力をつけます。
そして天声人語の要約で、話したいことを文章としてまとめる力をつけます。
人材の育成(その2)では、海外での研修と突撃取材の話をしました。
海外での研修は、世界の人々の生活を知り、自分の生活がいかに豊かで、物にあふれているかを知ることで、価値観の物差しの幅を広げることができます。
そして、読書では文字から知識を蓄えましたが、突撃取材では、他の人の話から知識を得、より価値観の幅を広げます。


今回は、そんな研修をちょっと違う視点から考えます。
天声人語の要約や読書は、日々の生活の中で行うものです。
海外での研修や突撃取材は、日々行うものではなく、特別な日の体験です。


そんな特別な日の体験が、自分の生活を変えようという動機になり、日々の生活の中での研修が、その生活の中での行動を変容させ、定着させることで、人の行動は変わっていきます。
日々の生活の中での研修をもう少しご紹介しましょう。
OJT(オンジョブトレーニング)を行うとき、多くの団体は事業をジョブととらえ、その事業を行うことで、研修としていると思います。
しかし事業は、実は特別な日の体験です。ですから、生活を変えようという動機になっても、生活の中での行動変容にはなかなかなりません。
そこで、日々の生活の中でも、そのような変容を考え、促して、定着させるための活動を行います。

その1【お茶くみ】
朝、10時、昼食時、そして15時にスタッフにお茶を出してもらいます。
それは、相手の気持ちを汲み取り、その気持ちに沿ったお茶を入れてあげるという研修なのです。
例えば、15時のお茶を入れるとき、少し疲れているなと思う人がいれば、その人のコーヒーを少し甘めにするような配慮をしてあげるという具合です。
それは、子どもたちの変化を見つけ、対応してあげるという行動に結び付くはずです。

その2【スピーチ】
朝礼で、研修として、スピーチをしてもらいます。
これは、読書や突撃取材で手に入れた知識を、海外研修や突撃時取材で手に入れた価値観の尺度に照らして、話したいことを文章にまとめ、いよいよ人前で話をするという場面になるのです。
また、自分の行動変容を他者に話すことで、宣言することにもなるでしょう。
もちろん、子どもたちの前で、話さなければいけないことを、うまく伝える力をつけることになるでしょう。

その3【味噌汁つくり】
昼食はできるだけ職員が集まって食べるといいでしょう。
そこでの何気ない話題は、若い人にとってはとても勉強になるはずです。
というよりは、勉強になるような話をしたり、若い人の気持ちを聞いてあげることができる時間になるでしょう。
その時、若い人たちに、昼食をとる人たちの味噌汁を作ってもらうのです。
野外活動団体ならではかもしれませんが、その味噌汁作りは、野外料理のトレーニングになるはずです。
そして、食事の開始時間までに味噌汁を作り上げることを繰り返すことで、その段取りを覚えていくのです。

その4【掃除】
毎朝、始業前に掃除をしてもらいます。
この掃除というのは、もちろん職場をきれいにするということではありますが、その作業過程で彼らに学んでもらうのは、掃除をするときに、きれいになっているかどうかをいつも考えるということです。
毎日、同じ場所を同じように掃除していると…。例えば、階段を掃除する際、いつも掃除機をかけているとします。しかし、階段のわきの腰板のへりにたまったほこりをふき取ることに、気付く力をつけなくてはいけません。
事務所をきれいにしていくという目的をいつも心にとめながら、掃除を行っていれば、気付くようになるのです。
それは、目的を見失わずに活動をしていく力になるのです。


このように、日々の研修によって、若い人たちの成長を促していくのです。
しかし、少し大変なのは、このような日々の研修は、上記のようなことを「すること」が目的になりがちだということです。
そうならないためには、きちんと目的を把握した指導者が、いつも立ち合い、その目的を折に触れ話をしなくてはいけません。
もちろん、できれば一緒にお茶を入れたり、掃除をしたり、味噌汁を作ったりするといいのですが。
スピーチは、原稿をチェックしてあげるのもよいでしょう。
しかし、あまり手を出すと、彼らの成長につながらない。ですから、ほどよく手伝い、ほどほどのところで、離れて見ていてあげるという『さじ加減』が必要です。
離れて見ているといっても、あまり人のあら捜しをするようなチェックをしては、研修が逆効果になってしいます。
なかなか難しい指導ではありますが、指導する側にとっても、醍醐味のある研修であると思います。
そして、そんな日々の生活の中での活動こそが、人材を成長させるのだと思います。

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