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コラム『カシオペイア』(アーカイブ)

コラム『カシオペイア』(アーカイブ)第63号
野山を走る
桜井 義維英

2021.7.21

プログラム名としては、クロスカントリーというのでしょうか。
しかし、クロスカントリーなどと、大上段に振りかぶらなくても、子どもたちが、野原を駆け回り、森の中を徘徊するのは見ていても楽しいものです。

残念なことに、日本の体験活動では、プログラム名が付かないと良くないというか、何もしていないのは申し訳ないというような雰囲気があります。

子どもたちはきっと、野原を、鬼ごっこなのか、チャンバラごっこなのか、なんだかわからないけど、駆け回るのがとても楽しいのではないでしょうか。
その時の表情は、はじけるような笑顔です。

しかし、そんな時に限って彼らはステンと転びます。
草の株につまづいたり、モグラの穴に足を取られたりしてです。もちろん、ぬかるみに足を取られて滑ることもあるでしょう。
これは危険なことなのでしょうか。
子どもの時に、このような足元が平らでない場所を歩いたり走ったりすることは、自分の身体のバランスをとる力をつけるのに重要な体験なのではないでしょうか。
このバランスと注意力を身につけるためには、やはり一度や二度転ばないといけないでしょう。

しかし現実には、このように山で走らせてあげることができる活動はなかなかありません。
「いやいや、私のところはしているよ」という方もたくさんいるでしょう。
しかし、大学などで話を聞くと、そのような体験をしたことがない学生がほとんどといってもいいくらいです。

そんな大学生に野原で走ってごらんといっても、こっぱずかしくって、できませんよね。
そこで、大上段に振りかぶってみます。
成人対象のプログラムとしての「クロスカントリー」というものを考えました。
陸上競技のクロスカントリーは、アップダウンのある林道や、芝の道などを走るものですが、私たちが考えたクロスカントリーは、主に山道で、両手を使わないと登れないような道や、慎重に歩かなくてはいけないような道、川の中をじゃぶじゃぶと渡る道などをコースの中に設定します。
まさに、自分の全神経とバランス能力をフルに動員して走りぬく活動です。
もちろん相当体力がものをいう活動でもあります。

コースを間違うかもしれないという緊張感も伴います。
これは、参加者はもちろんですが、コースを設定する運営側も、相当緊張することです。
コースは、色付きのテープなどを記や岩に巻き付けて誘導しますが、それでも見落として道を見失うことがあります。
そんなとき、事故につながらない道間違いであるようにしなくてはいけませんし、救助をどのようにするかも考えておかなくてはいけません。

スタートしたら、ゴールするまで、各人が一人で身の安全を守らないといけません。
もちろん最後尾から、運営者が走っていきますが、道を誤ったらフォローはききません。
ケガをした場合などは、救助方法は考えておいたと言っても、それは一苦労となります。
運営部隊は、スタートさせたら、すぐにゴール地点へ移動をしなくてはいけません。
車で移動するにしても、相当な距離の回り道を強いられることとなります。
そういう点では、運営側が最も緊張する活動といっていいかもしれません。

しかし、走り抜けたときの達成感は、相当高いものがあります。達成感というよりも、爽快感という方が正しいかもしれません。

もちろん、何分で走り抜けられるかも大切ですが、まずは走り抜けることができたということが重要な活動となります。

走った人たちにおいては、川を靴を履いたまま駆け抜けるような体験であったり、四つん這いのようにして走るという体験は、ものすごく新鮮です。
そこでバランスをとること、神経を集中し続けることは、普段の生活の中では強いられることのない、感覚なのです。

しかし、そうはいっても、体力差が際立つ活動でもあります。

そこで、周回コースを作り、そこを試走してもらい、自分が一周何分ぐらいで走り抜けることができるかの目安をつけてもらいます。
そして、一定の時間、1時間とか2時間とかの間に何週走るか、自分で目標を設定してもらいます。その目標を達成できるかどうかを、ゴールとする活動に変更できるかもしれません。

しかし、周回コースにすると、川を渡るとか、険しい道を進むといった、あらゆる変化を持たせることが難しくなってきます。

いや、可能な場所はあるのかもしれません。が、私の経験の中では思いつきません。
私が今まで行なったクロスカントリーで、一番素敵なコースだと思ったのは、丹沢の東側、丹沢ホームをスタートし、唐沢川沿いを煤ケ谷まで駆け抜けるというものでした。
このコースを作るためには、相当いろいろな山道を歩いていないといけませんし、実際に走ってみないといけません。
その時は、自分を守るための装備を担ぎ、地図を片手に走るわけです。

そして、走ってみて、結果このコースはダメだということもしばしばです。
すなわち、運営側がプログラムを作るために、ものすごいエネルギーを必要とする活動でもあります。

しかし、若者たちのエネルギーを爆発させる活動としては、とても良いものだと思います。
周回コースでも、いいロケーションを作ることができる場所を見つけ、再び、このようなクロスカントリーを実施できるといいなと思っています。
欲を言えば、常設コースができ、若者が気軽にチャレンジできるようになればいいのですが。

そしてこのコースが研究され、子どもの用のコースなども作られるようになると、さらによいと思います。

コメント

No.1   ロッキー

冒険教育が両親からのプレゼントの選択肢になる時代が来るといいですね。
そのためには、もっと身近な自然に、家族でのんびり過ごす機会が増えたり、それが一般的なことになるといいですね。休日は家族で近所の裏山登り、山でのんびりキャンプ。車は使わない。
そのためには、社会のスピードがもっと緩やかになって、両親に心のゆとりが持てないと。
やはり、経済、環境、福祉、全てが良くなっていかないと、ダメですね。野外教育の一筋縄ではいかないかもしれませんね。

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