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コラム『カシオペイア』(アーカイブ)

コラム『カシオペイア』(アーカイブ)第89号
観光×自然体験の可能性
白井 健(NPO法人千葉自然学校)

2022.2.2

私が働いている南房総市は、海水浴や花摘みなどの観光業が主要産業でした。しかし、現在は、旅行や観光の形態が多様化し、栄えていた従来型の観光は衰退し、観光事業者は次の打つ手に苦しんでいる状況です。さらにコロナ禍が拍車をかけ窮地に追いやられています。
既存の観光業から脱却するために、現在南房総市観光協会と連携し進めている事業の一つに「南房総アウトドア構想」というプロジェクトがあります。この地域の一番の魅力は、都心からも近く、かつ手軽に楽しめる里山里海が広がっている自然環境であり、それを活用した「アウトドア」体験を新しい観光の形にしていこうという趣旨です。
この構想の柱は以下3つです。

1. 地域住民へのアウトドア普及活動
これまでは、いかに地域外から顧客を呼び込むかということに注力してきましたが、「地域住民にこそアウトドアの魅力を感じてもらう機会が必要だ」という意見が観光事業者自身からも多く聞かれました。それらの機会を作ることが、自分の地域に誇りを持ち、更に活気あるまちづくりにつながっていくのだと再認識したのです。まちに活気があるということは、地域外から人が訪れる理由となります。そのために、地域内でのアウトドア活動を普及していこうというねらいです。

2. 地域内アウトドアネットワークの構築
アウトドアを生業にしている事業者や団体がいくつかありますが、それぞれ連携する必要性を感じていなかったため同じテーブルで話す機会がなかなかありませんでした。しかし、このコロナ禍を経て、新規顧客の獲得や地域への理解を深める必要性が高まったのです。人数の多い団体客への対応、フィールドの環境を守る活動、関係諸機関へ発言力を高めるなど、ネットワークを組むメリットを生かせるような場を作っていくことをねらいとしています。

3.アウトドアコンテンツの充実、人材の育成
アウトドアツアーを実施できるスタッフの数が限られていることから、ニーズがあっても応えきれていない場面がありました。この問題を解決するために、市民ガイドの育成に取り組んでいます。いつでもツアーを受けられる体制を整備することで、観光客の増加や、滞在時間の延長による宿泊事業者への経済効果が見込まれ、地域の副業としてアウトドアガイドが定着するよう取り組んでいます。

上記3つの事業を柱とし、構想段階から南房総市観光協会、南房総市観光担当課、地域のアウトドア事業者といったステークホルダーに関わってもらい「南房総アウトドア構想」を推進しています。このプロジェクトは地域の観光産業の起爆剤になることを狙っています。そして、そのコーディネーターとして、私たちがその役割を担っています。

まだまだ始まったばかりのプロジェクトで、今後どのような動きになっていくのか、見えていない部分も多いですが、私たちのような青少年教育施設と、観光分野の方が連携する理由は何でしょうか。
青少年教育施設の事業は、自然体験活動のフィールドを持ち、日々の指導現場を抱えています。これだけの場と機会を持っている事業者は、地域を見渡してもなかなかありません。つまり、人と自然をつなげ、教育的な学びの機会をつくる専門家です。
また、観光事業者は地域外の人へ、自然、食、文化、歴史などの地域の資源を商品化し、経済活動へつなげていくプロフェッショナルです。
今取り組んでいることは、消費型で儲ければ良いという観光でなく、持続可能で訪れた人も地域の人も幸せになるような、観光と自然体験が融合する新しい形を目指しています。
しかし、その道のりは課題も多く、ターゲットが重なっている部分もあり、お互いの理解を深める必要もあります。また、プログラムを実行できる人材の育成や、フィールドの整備など時間をかけてすり合わせる必要があります。まだまだチャレンジしなければいけないことがたくさんあります。

今動き始めているプロジェクトを一例として、私たちは、自然体験活動の専門家として、多様な分野の方とのチャンネルをもっと増やす必要があります。なぜならば、観光分野だけでなく、高齢化が進む中では福祉・介護分野との連携も求められるでしょう。
また、教育環境を重視する人には、森のようちえんや自然環境を生かした教育機関があれば、その街を移住先として選択するインセンティブになるかもしれません。第一次産業の後継者不足問題や遊休農地、耕作放棄地の問題も大きな課題としてあります。今生きている社会には生きる人たちの数だけ抱える課題があり、問題自体も多様化してきています。コロナ禍、デジタル化、人口減少など非常に変化の激しい局面に入り、従来通りの方法でなく、多様な分野の事業を掛け合わせ、より多くの人を巻き込み、地域に社会に必要とされる存在になる必要があるでしょう。


そのためには、地域の声をよく聞き、求められていることに対して常に自分たちも変化する柔軟さが必要です。相談ごと、困りごと、ちょっと聞いて欲しいこと、そういった「御用聞き」をする中で、色々な情報が集まってくるのだと思います。なくてはならない存在になることで、それがゆくゆくは自分たちのビジネスにもつながってくるでしょう。
私たちは何ができるのか、ぜひ一緒に考えましょう。

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