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コラム『カシオペイア』(アーカイブ)

コラム『カシオペイア』(アーカイブ)第71号
言葉のチカラ
原田順一

2021.9.15

「雨が降ったコースは、いいコースになるだろう」。この言葉は、私が22歳の時に参加した、冒険教育指導者養成コースでインストラクターに言われた言葉です。きっと他にも言われたはずなのですが、この言葉が一番印象的でした。想像するに、きっと雨ばかりの日が続いていたのかもしれません。荷物や洋服は濡れて、野外で活動するにはストレスのかかるプログラムになり、参加者である私たちの疲れ切った表情を見て、前向きになるように、そう伝えてくれたのかもしれません。野外での活動経験がある皆さんであれば、雨ばかりのプログラムや、雨が上がった後の青空の清々しさなど、きっと同じような経験はあるのではないでしょうか。そして、決まってそういった大変だった時や、辛かった時の方が、記憶が鮮明ではありませんか?なんて、野外活動をする方には当たり前だよと言われそうですが、雨がもたらす困難な体験が、参加者同士の絆や雰囲気をより良くしていくのだということですね。即ち、そのコース自体が、総じていいコースになるといったわけです。
 さて、こうしてこの記事を書いている正に今、雨が多く降ったコースに参加しています。バケツをひっくり返したような強い雨、突然の夕立、葉っぱから落ちた雨水が屋根を打つ音。雨は色々な音を奏でてくれます。「ザー」という強い雨音は、その他の音をかき消し、会話すらできないくらいの音となります。シトシトと屋根を打つような音は、心を少しばかり落ち着かせてくれる気がします。耳から得る情報は、頭の中でそれぞれの価値観に沿って、心を動かしてくれるのかもしれません。目を閉じると、音は大きく聞こえる気もします。
 この時のキャンプで、こんな一面を見ることができました。夕立の雨の強さで、声が聞こえにくく、食堂ではキャンプ全員が凄い雨の量に、身動きが取れない
状況でした。すると1つの班が、広い食堂で肩を寄せ合って話をしていました。そうです、物理的に近くに集まって話しをしていたわけです。もしかしたら、伝えるためには邪魔な雨の音が、普段よりも一生懸命に伝えようと努力するきっかけになったのではないか?人は、やはり壁があったほうが伝えるために工夫をするのではないか?そんなことを考えさせてくれました。
 少し話題を変えたいと思います。みなさんは、子どもたちの心に残るような言葉を言ったことはありますか?キャンプファイヤーの残り火や、満点の星空、山頂からの壮大な景色を前に、子どもたちが感動したり驚いたり、発見したりするようなきっかけになる言葉を持っていますか?少し照れくさい話でも、自然の中では素直に言えることもありますよね。なぜこのようなことを考えるかと言うと、参加者からスタッフになった人たちに聞くと、「あの頃リーダーにこんなこと言われました」「火を囲んで話した時のリーダーの言葉が印象的でした」ということを聞きます。何年たっても、その言葉が色あせないで心に残ったということです。このように、若いスタッフでも、子どもたちの心に残るような言葉を伝える機会はキャンプには多々あります。何か有名な言葉を引用することも、聞いたことがある言葉をそのまま伝えることも、まったく悪いとは思いません。でもきっと、素直な気持ちから出てきた、本当の言葉。あなた自身の言葉が一番良いということは言うまでもありません。そのような自分の言葉を持つということは、簡単ではありません。それこそ、色々な経験や体験から出てくるものだと思います。サマーキャンプが終わり、来年のキャンプのために、「自分の言葉を持つ」そんな機会をぜひたくさん作るのはどうでしょうか。言葉は、チカラを持っていると私は信じています。

 NPO法人湘南自然学校 原田順一

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