コラム『カシオペイア』(アーカイブ)第90号
人材の育成(その1)…読むこと、書くこと
桜井 義維英
2022.2.9
私たちは、基本的に人前で話をするのが、仕事の大きな部分を占めています。
その話は、ただ話せばいいということだけではなく、話したいこと、伝えたいことが、きちんと伝わらなくてはいけません。
そのためには声の大きさとか、話をする環境とかも大切ではありますが、最も大切なのは、その内容でしょう。
いくら一生懸命話しても、聞く人たちにその内容が伝わらなくては、何にもなりません。
「話した」ということと、「伝わった」ということは、同じようで、まったく違うことだと思います。
どうしたら伝わるのか。
それは、話をする人が「何を伝えたいか」をきちんと整理して、順序だてて、道筋を立てて話をすることです。
しかし、聞いていると、一生懸命話しているけれど何を言いたいのかわからない、いくつものことをいっぺんに話されて覚えきれないといったことがよくあります。
私は思います。
うまい話ができる人は、文章を書かせてもうまいと。
逆に言えば、文章がきちんと書ける人は、話も上手だと思っています。
そして、そのような話の上手な人材を育てるためには、やはりトレーニングをしなくてはいけないと思います。
そこでご紹介したいのが、朝日新聞の天声人語の要約トレーニングです。
私は若いとき、財団法人交通遺児育英会で、このトレーニングを受けました。
毎朝、新聞を読んで、天声人語を要約しました。
おかげで、そこそこ文章が書けるようになりました。そして、話もうまくなったのではないかと思っています。
まったく違う話ですが、以前読売新聞の記者だった、現青森大学理事長の岡島先生の講演を文字起こししたことがありました。そこで驚いたのは、その講演内容がほぼ手を入れなくても、しっかりした文章になっているということでした。
さすが新聞記者と思いました。
そしてそこで確信したのです。文章力のある人は話もうまいと。
ただ、話がうまくても、声が小さい、活舌が悪いといった要因で面白くなくなってしまうこともありますが。
さて、そのようなわけで、皆さんも是非、そんなトレーニングをされることをお勧めします。
私は、このようなフォームを使用して、要約をしていました。
これを、上司に直接提出し、添削をしてもらいました。
しかしスマートフォンなどのデバイスが発達した今は、直接提出できなくても、スキャンしたものを送り、受け取った私なりが、タブレット等で添削をすることができます。
すなわち、全国どこにいてもそんなトレーニングができるということです。
以前、私がある人のトレーニングのために添削をして差し上げたものです。こんな感じになります。
さて、もう一つ。文章を書く力を身に着けるには、いい文章を読まなくてはいけないと思います。
いいモデルが必要ということです。
いい文章をたくさん読んで、その表現力に触れると、そのような表現ができるようになるのではないでしょうか。
これも、若いときのトレーニングですが、50冊の課題図書を読んで、感想文を書くというものがありました。
いい文章を読んで、自分が感じたことを文章に書きとめる。
そんなトレーニングも、文章力をつけるトレーニングになるのではないでしょうか。
その50冊というのは、どれも、しっかりした文章であったり、美しい文章だったりというものでした。
時代小説などと違って、歯ごたえがあり、読むのにも努力が必要な本ばかりでしたが、それが、今とても役に立っていると思います。
指導者の養成とか、人材養成というと、技術トレーニングや管理トレーニングが中心のようですが、実は、人前で話せたり、文章が書けるようになることは、自然体験の指導者にならなくても、社会人として、どのような仕事についても役に立つことなのではないでしょうか。
ですから、学生のボランティアの方たちには、このような文章トレーニングや、読書感想文のトレーニングをしてあげることが、大切なのではないでしょうか。
そのためには、私たちも、文章力を高めることができるよう日々トレーニングをしなくてはいけないと思っています。