未定稿小説『奥山村物語』44
2020.9.18
電車の中でも、みんな立っています。階段の話をしたことで、電車の中も立っていようということが思い出されたのでしょう。
途中で、お年寄りが乗ってくると、みなすっと道を開けて、空いている座席に導いていました。福田さんは微笑ましく彼らを見ていました。
ハイキングは、グループごとに出発していきます。
途中で、色々な問題が出ていて、それを解決しながら進んでいきます。
お天気も良く、順調でした。
お昼は工房山の山頂で食べます。福田さんはそこで待ち受けていました。
時間に差があるので、着いた順にグループごとで食べます。
見ていると、ほとんどの子どもが、手作りのおにぎりを持ってきていました。
中には、確かに自分でにぎったであろう、形もいびつで、すでに崩れかけているようなおにぎりもありました。
しかし中には、コンビニのおにぎりを持ってきている子もいました。
福田さんは、その中の一人の男の子に、それとなく近くに寄っていきました。
何となく、隠して食べているように見えたからです。
その子は、土井けんた君です。
「けんた、おにぎり自分で作ってこなかったのかい?」
けんた君は背を向けたまま何も言いません。
福田さんは、無理には聞かず、そのままその場を離れました。
そして、けんた君のリーダーの今野さんのところに行って、「なんとなく、聞き出せたら聞いてくれるかい?」と、そっと声をかけました。
今野さんは「はい」と答えて、任せてと言わんばかりに微笑みました。
福田さんは、彼女が、夏のキャンプから、グッと成長したと感じていました。
(彼女なら任せて大丈夫だろう)と、思いました。
駅に全員が集まったときにはそれでも、みんな結構疲れていました。
電車に乗ると、みんな、座りたそうな顔をしています。
福田さんは迷い、とても悩んでいました。
「無理に立たせるのも問題かもしれないな…疲れている子には座らせてもいいか?しかし、誰が疲れていて、誰が座るか…どうやって決める?」
その日は、みんな頑張って、立ったまま帰ってきました。よく頑張りました。
そして、階段を上るときはもう、手すりにすがるように登る子どももいました。
中には、「エレベーターで登りて~」と叫ぶ子もいました。
しかし、そう言いながらもみんな頑張って登ってくれました。