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未定稿小説『奥山村物語』

未定稿小説『奥山村物語』27

2020.5.11

福田さんが、省三さんに深々と頭を下げます。

「本当に本当にありがとうございます。」

「なんも、子どもたちも独立して、あれとふたりきりで、つまらんと思っとったとこだ。こっちも張りが出て、ありがたいこっちゃ。それより、あいつの家族のこと、考えてやらなあ、いかんだろう。」

「はい、洋君のおばあちゃんとお話ししながら考えます。家族で暮らすとならば、そう簡単なことではありませんから。それに、お父さんとの問題もありますし…」

「そうじゃな…おめ~に任せる。が、こっちのことは任せろ、家だって何とかしちゃる。」

「ありがとうございます。では、こんやはこれで」

「うむ」

「おやすみなさい」

「おお・・・」

挨拶を交わし、玄関を二人は出ました。

今夜は谷口君も福田さんのうちに泊まります。


翌日の朝、谷口君の車で、福田さんは、奥山村を後にします。

「谷口君」

「はい」

「教育の仕事というのは、子どもたちに何か体験させるだけでは済まない仕事なんだね。」

「ええ、私も昨日の三枝君の話を聞いて、何か胃袋にずんと抱え込んだ感じでした。」

「不安になったかい?」

「いいえ、逆です。僕たちのやろうとしていることは、今の日本には無くてはならないものなんじゃないだろうかと思っています。やりがいのある仕事だと思っています。」

「そうか。よかった。」

「福田さんこそどうなんですか?」

「私も同じだよ。彼を奥山村で預かろうと思った時点でね。」

「さすが、考えが一歩先に進んでいますね。」

「一緒に頑張ろう」

「はい」

東京に戻ると、早々にいつものメンバーが集まりました。

松永先生、陽子さん、平野君、谷口君に福田さんです。

年も押し詰まってきて、もう、来年度の教室オープンには日がありません。

福田さんが口火を切ります。

「今日は大切な事を相談したいと思います。」

みんなは、福田さんを見つめます。

「皆さんもお気づきでしょうが、この学校の名前を決めていませんでした。それを今日みんなで相談して決めたいのです。」

「そういえばそうでしたね。」松永先生が微笑みます。

「みんな適当に言っていたものね。」と、陽子さん。

谷口君と平野君はうなづきあいます。

平野君が、「二人で飲んだ時に、とりとめもなく名前を考えたことがあるんです。いくつか候補を言ってもいいですか?」

「もちろんです。聞きましょう。」

二人は顔をお見合わせて、お互いの手帳を開きます。

彼らは、いくつかどころではありませんでした。

まず、以前、池田さんの資料では、「奥山村ふるさとキャンプ」となっていました。

でも、キャンプというと一回しかないような感じだし、キャンプ場のような感じでもありますし、学校というほうがいいかなって…いくつか案を出しました。

奥山ふるさとキャンプ学校、奥山村ふるさと学校、奥山村キャンプ学校、奥山村山の学校、福田キャンプ学校、福田自然学校、福田学校、日本自然学校、日本キャンプ学校、日本自然体験学校、日本体験学校、子どもキャンプ学校、子ども体験学校、農業体験学校

FHTスクール、何でもできる学校、福田義塾、奥山義塾

福田さんは次から次に出てくる候補に途中で、

「いやいや少しどころじゃないね。しかし、今まで出たものが主な物じゃないか?だんだん酔いが回ってきているときのアイデアの感じがするぞ」

「はあ、たしかに」

「東京で募集することを考えると、奥山村の名前を前面に出すのはどうかしら」と陽子さん。

「いえ、奥山村は逆に強調したいと思います。いずれは、奥山村本校。東京分校みたいにできればいいんじゃないかなって。」

「なるほどね。でも、どうしてそこまで奥山村にこだわるの?」

「子供たちにとって、いいえ、その家族にとっても、奥山村が故郷のように思えるですから、奥山村の名前を大切にしたいんです。」

「なるほどね、と、言うことは、奥山村何々学校という感じなのかしらね。」

陽子さんはさすがに編集者です。その辺の整理が早いです。

「奥山村…学校…か」

「奥山村キャンプ学校、奥山村自然学校、奥山村自然体験学校、奥山村ふるさと学校、単純に奥山村学校」と、平野君がつぶやくように並べます。

「うん、少し書いてみようか。」

と、福田さんが、みんなの前にノートを開いてサインペンで大きめの字で書き始めます。