未定稿小説『奥山村物語』12
2020.4.5
谷口君は「一人一本は持って行っていいと、堤さんんが言ってくれているから、お気に入りの一本を持ってください。他のはちゃんと堤さんのトラックに積みましょう。」
ワイワイ畑から出てくる子供達の中に。福田さんは、あかりちゃんを見つけました 。
まるで農協のコマーシャルに出るような・・・両手に何本ものトウモロコシを抱え、かおがみえなくなりそうです。
そしてその顔は満面の笑顔です。
あかりちゃんが「ふくださ〜ん。いっぱいとれたよ〜。あかり、いっぱいとったよ〜。すごいでしょう。」
「うん、すごいね〜。たくさんとったね〜」
「私、来年もトウモロコシ取りに来るって、光さんと約束したの。福田さんも来てくれる?」
「もちろんだよ!」
「うれしい〜! 約束だよ」
「さあ、あかりちゃん、そのトウモロコシをトラックに積もう。」
「は〜い」
そういうと、あかりちゃんは背伸びしてトラックにトウモロコシを押し上げます。そして、全部トラックに積んでしまいました。
「あかりちゃん、一本は持って帰っていいんだよ」
「いいの、あかりは来年も取りに来るから、持って帰らなくていいの。」
「いやいや・・・まいったな〜」福田さんは苦笑いです。
今野さんに目配せして、あかりちゃんの分を一本余分に持って行ってもらうことにします。
あかりちゃんは意気揚々と、両手を振ってみんなと歩いていきます。
他の子達に「トウモロコシは?」と聞かれるとその度に、
「あかりは来年来るからいいの」とこたえています。
よくわかりませんが、本人はそれで納得しているようです。
堤光さんがよってきて、「来年の夏休みの間はうちの娘になるんだとさ。本当にそうするなら、来年の夏休みの間、このトウモロコシ畑はあかりちゃんのものだなと言ったら、あの通りさ。」
「なるほど〜」福田さんも今野さんも破顔しました、
「昨日の夜は省三さんのお宅で、ホームシックで大泣きしたんですよ。1日目の夜も泣いていたのに。何がそんな風に言わせるんでしょうね。」
「本当だな。しかし子供は大人が考えているよりずっと早い速度で大人になっていくもんだで」
「なるほど、肝に命じます」と、光さんをまっすぐと見つめました。
光さんは、ちょっと照れると、「いやいや柄にもないこと言っちまったで、さて、あらかた積んだようだで、俺はうちに戻るとすっか」と、首の後ろをかきながら、車に向かいました。
「ありがとうございました」と、福田さんと今野さんが挨拶すると、それに気がついた子供達も一斉に「ありがとうございました〜」と、あいさつしました。
さて、いよいよ、このキャンプのメインイベントが始まります。
平野君は早々に公民館に戻って、準備を始めていました。
作るものはさして難しものではありません。
カレーライスにフルーツポンチ、それにサラダです。
小さい子供達はフルーツポンチやサラダを作り、大きい子達でカレーライスを作る計画です。
カレーのための薪や、クドを用意し、お米を計っておきます。
そんな準備を平野くんがしているうちに子供達の声がしてきました。
子供達は、すでに谷口君に夜のメニューや役割分担を聞いているようで、「俺はカレーのためのかまどの火を焚くんだ」「私はフルーツポンチを作るの」といった声が聞こえてきます。
平野君は(たった数日なのに子供達は見違えるほどたくましくなるものだな)と、感じていました 。
そんなことを考えていると、平野君はアレっと思いました。
子供達の声に、違う声も混じっているのです。
平野君は道路に出て見ました。するとどうでしょう。何人ものおじさんやおばさんが子供達と一緒に歩いてくるではありませんか。
まだ、約束の時間までは3時間以上あります。
「あっちゃ〜」と、平野君は苦笑いしました。
こりゃあ、晩御飯の予定は大幅に変わるな。何人ものおじさんやおばさんがお手伝いしてくれたら、相当早く料理はできてしまう。まだきていない地元の人たちに急ぎ連絡して、集まってもらう時間を早めないといけないかもしれない・・・
しかし、各家庭での料理の準備もあるだろうに。どうしたものかな・・・
平野君は再び苦笑いして頭をかきました。
子供達が、公民館になだれ込んできます。
福田さんは、おじさんやおばさんとおしゃべりをして、持ってきてくれた料理を受け取っています。平野君はまずは子供達に薪を配ったりお米を配ったりと忙しく動き回ります。
福田さんが平野君に声をかけました。
「どうしようかね。このままだと相当早くご飯ができてしまうよね。」
「はい、私もそう思います。」
「とにかく、まだいらしていないおうちには、早めにお越しいただけるようなら来てくださいと連絡をしようか。」
「わかりました。そうします。」
平野君は公民館の公衆電話に向かいました。
子供達は、おじさんおばさんおじいいちゃんおばあちゃんと一緒に、着々と食事会の準備を進めています。
もう、スタッフが何も言わなくても、どんどん進めます。
ましてや、地元の人たちがいるので、早いものです。
こんなもの…あったの?といいうようなものが、次々に出てきます。
火ばさみや、消しつ炭の壺、何処からともなく出てくるのです。
机にかけるテーブルクロスまで現れました。
手の空いたおじさんたちが、桜の木に、野外用の電灯を付けています。
なんとも、手馴れたものであっと言うまです。
そんな中、次から次へと地元の人たちが詰めかけてきます。
机の上は、あっという間に料理で溢れかえり、子供たちは、貰い風呂をしたおじいさんおばあさん、おじさんおばさんと楽しげに話をしています。
節子さんの軽トラが公民館の裏にとまりました。
そして、福田さんのところに駆け寄ってくると、「福田君、村長もくるってさ」
「え、それは大ごとになっちゃいますね」
「大丈夫よ、村長はただ顔売りたいだけだから、でも、一言挨拶だけさせてあげてくれる?」
「了解です」
福田さんは近くにいた谷口君に声をかけて、マイクとスピーカーも用意してくれるように頼みました。
谷口君が怪訝な顔をしているので、「村長もくるってさ、挨拶させたいんだ。いただきますの掛け声お願いしようか?」
谷口君は苦笑いしながら大きくうなづくと「オッケ〜です」といってかけて行きました。
その晩の盛り上がりは尋常ではありませんでした。
早々と料理は出来上がり、何とか村の方々もみんな揃ったのはなんと、予定の1時間も前でした。
そんなわけで、村長の「いただきます」の掛け声に、割れんばかりの「いっただきま~す!」という声が夕焼け空に響きわたりました 。
子供と、地元の人たちは、まるで家族のようにふれあい、子供たちは、自分が貰い風呂をした家庭の方々に、ここでできた友達を紹介します。するとそこでまた話の花が咲くのです。
福田君はあちらこちらのおじさん、おばさん、おじいさん、おばあさんにひっぱりだこです。
平野君は省三さんに捕まっています。
「おめえ、1日帰りを伸ばしてうちに泊まっていけ。むすめにあわせっから」
「いやいや、こどもたちをつれてかえらんいといけませんので。」
「なら、来週また 来」…といった具合です。
そこに三枝君がニコニコして話を聞いています。
省三さんは三枝君に向かっても、「おめ〜は、次の連休にはこっちに帰ってくるんだっぺ」
「もちろん、オメーは付き添いでくるんだぞ」と、平野君の肩をパンパンとたたきます。
三枝君は「来てもいい? きっと来る」
「お〜あたりめ〜だ、オラのうちはおめ〜のうちみて〜なもんだからな。いつでも、帰って来るだ」
「うん。」といって三枝君はちょっと涙ぐんでいます。
「ひらの、おめーはつきそいだあからな、いいな」
平野君は、おお困りです。しかし三枝君の手前、嫌ですとも言えず、頭をかいています。
伊藤さんはあちらこちらから、写真撮って〜という声に、汗だくになって駆け回っています。
「福田さん、フィルム予定をオーバーしちゃいます。」
「予備はあるかい?」
「はい、それは十分にありますが」
「じゃあ、思う存分撮ってあげてください」
「わかりました」
伊藤さんも、楽しそうです。
そこに節子さんが近づいてきました。
大きなおにぎりを頬張りながら、
「福田君、想像以上の大成功ね。盆踊りでもこんなに盛り上がらないわよ。」
「そうですか、ありがとうございます。そう言ってもらえると私もやりがいがあります。」
「今から来年の話してなんなんだけどさ、来年は、盆踊りとお祭りの時期に来ない?」
「え?」
「お祭りでね、子供神輿があるんだけど、もう、子供の数が少なくて、子供神輿出せそうもないのよ。それに盆踊り盛りあっがらないの。」
「なるほど・・・いいアイデアかもしれませんね。お神輿かついだり、盆踊りしたりするのいいかもしれません。」
「でしょう、そうしましょうよ」
「ちょっと、省三さんたちにも話してみるね」
そういうと、節子さんはまた、人垣の中に入って行きました。
福田さんは、この風景を見ながら、確かな手応えを感じていました。
食事会も終わり、地元の方々も三々午後引き上げていく中で、村長さんと、節子さんが福田さんのところに歩み寄りいました。
よくみると、後ろから省三さんもついてきます。そればかりでなく数人のおじさんおばさんも一緒です 。
「福田君、さっきの話ね・・・」
「ぜひお願いしますだ。村の連中もみんなそうしてもらえりゃあ、って言ってますから。」と、村長さんが割り込んできます。
「あの、お祭りの時にくる話?」と、福田君は節子さんに聞き返します。」
節子さんは微笑みながら大きくうなずきました。
「ちょっと話したら、もうみんな大乗り気なの。それどころか、来年はずっと民泊でもいいって・・・」
「いやいや、それは・・・とにかく、今回のキャンプが終わったら、もう一度来年のご相談んをしにこちらに伺いますので、その時にあらためてご相談んさせてください。今は、まず、この子供達を明日、無事におうちに返すことを考えたいので。」
「それもそうだな。このお子たちが事故にでもあったら、何にもならんし来年の話どころではなくなってしまうからの」と、村長が、我に帰ったように言います。
「そうね、大事なこと忘れていたわ。ごめんなさいね、つい、舞い上がっちゃって。」
「いいえいえ、そんなふうに言っていただいて、有難いことなんです。とにかくあらためて、伺います。その時に、ご相談させてください。もちろん来年もお世話になるためのご相談に伺いますから。」
「そうか、その一言でいまは十分じゃないか、なあ、みんな」と、村長が残っていた人たちを振り返ります。
みんなが大きくうなずき、微笑みました。
だんだんに、外の明かりも片付けられ暗闇に戻っていく中、村長をはじめとした人々が福田さんの手を握り、帰って行きました。
節子さんが、「ごめんね、先走ってしまって」
「いえいえ、何度も言いますがありがたいことです。帰る前にいつご挨拶に伺うか決めておかないといけませんね」
「そうね、明日、候補日教えて」
「はい、わかりました。」
そんな話をしている間に、外の机や、道具類は、すっかり片付き、子供達は、公民館の中に入り、寝る準備に取り掛かっていました。
しかし、興奮冷めやらぬの状態で、容易に寝そうにありません。
貰い風呂の時にお土産をもらえなかった子供達も、土産をもらい、大喜びです。
そして、住所の交換などもしたようで、ノートを見て、リーダーたちに、何と読むのと聞いたりしています。
平野君は、時間になったら、とにかく横にならせて、電気を消そうと考えていました。しかし、それでも寝ないかなと、ひとり苦笑いをしました。
そこに、谷口くんが、「平野さん、寝かせつけの時、男女の襖の端を少し開けて、そこに僕が座って、本を読んで聞かせるのはどうでしょう。」
「いいアイデアだね。頼むよ」
「わかりました。」
谷口君は、自分の荷物から、一冊の絵本を引っ張り出してくると、男女の部屋の境にしているふすまを少し開け、そこに自分が陣取ると、ヘッドライトで本を照らしながら、ゆっくりと読み聞かせを始めました。
『はなさきやま』という絵本でした。
はじめは、ざわついていた子供たちも、いつしか、そのお話に聞き入るようになりました。
そして、話が終わるころには、大半の子供たちが寝息を立て始めていました。
なんとスタッフの半数も、うとうとし始めてしまうという状況でした 。
話を終えると、谷口君は静かに立ち上がると、ふすまを閉め、スタッフの部屋に戻っていきます。