未定稿小説『奥山村物語』18
2020.4.10
「10日ぐらいの間に連絡くれるかな。」
「わかりました。」
「後、もう一人いたでしょう。谷口君だっけ?」
「彼は、私の旅行社に入れます。」
「なるほど、それはいい。」
「では、よろしくお願いします。」
福田さんはすぐに、平野君と谷口君に連絡を取って、二人に会いました。
その時にはもう、キャンプのおおざっぱなメモが出来上がっていました。
このメモを平野君と谷口君に見せました。
平野君が
「いよいよ始動ですね。」
「ああ、始める。その前に君たちの就職のことで話がある。」
「はい。」
と、二人が、顔を見合わせます。
「うわさは聞いているよ。」
「えっ?」
「就職活動をせずに就職が決まらないまま卒業をして、そのまま私と仕事をしようという作戦だそうだね。」
「え、そんな。」
と、谷口君がしどろもどろに答えます。
平野君は、
「ハイ、そのつもりです。」
と、まっすぐに福田さんを見て答えます。
谷口君は平野君の袖を引いて
「おい。」
と、戸惑った感じです。
「そこでだ、私が君たち二人の就職先を決めてきた。3年間でやめるということも了解済みだ。」
「平野君は、松永先生の大学の法人事務局。谷口君は僕のいた旅行社。」
「どちらも、面接に行けば、採用になるようにしてある。」
二人は沈黙してしまいました。
「3年間頑張って、それでもまだ、私と一緒に仕事がしたいということなら、必ず受け入れます。ただしその時私がまだ仕事を続けていられたらだがね。」
しばらく、沈黙が続きました。
平野君が…
「ありがとうございます。わかりました。そこで奥山村で役に立つことを学ぶことにします。」
「そうしてください、平野君。谷口君もいいかな?」
谷口君は…沈黙のままです。
再び沈黙がつづきます。
「わかりました。でも、人手が必要になった時には、すぐにやめて、そちらに行かせてください。一番最初のスタッフになりたいんです。設立していく礎を作るところに一緒に居たいんです。」
「わかった、そうしよう。」
「私も、同じです。」
と平野君も乗り出して言う。
「わかった。ありがとう」
そこで、福田さんは、二人に就職先の詳細をプリントした書類を各々に手渡し説明した。一通り説明が終わり、
「質問は?」
と聞くと谷口君が、
「ということは、もう、俺たちは就職活動しなくていいから、卒業までは、全力で、お手伝いしていいということですね。」
「なるほど、そういうことになるな。」
と、福田さんは微笑みながら答えました。
「もとからそのつもりだったじゃないか。」
と、平野君が谷口君をこづきます。
「ははは、まあ、いい、奥山村ふるさとキャンプの第一回会合を始めるぞ。」
二人は声をそろえて、「はい」と答えました。
福田さんの奥山村ふるさとキャンプの説明が始まります。
「子どもが変わっていくには、継続的に子供に関わりたいのです。
だから、一年間の継続活動にします。月に一度の年間活動をします。
本当は毎週、いいや毎日の活動をしたいのですが、それはまだ難しいと思うので、当初は月に一度にとどめます。
でも、それだけではなかなか収益が確保できないと思うので、夏休み、冬休み、春休みには別途キャンプをします。そのために必要なのは、
奥山村にキャンプ場を手に入れることです。でもそれは、しばらくあの公民館にお世話になりながら考えようと思う。次に必要なものが、スタッフです。これは、今から来年度に向けてトレーニングをしていきたいと思います。君たちにも手伝ってほしいです。これは基本日帰りだから、奥山村までは行くことができません。だから、東京近郊で考えることにします。もちろん月一度の活動のプログラムも考えないといけません。
これは基本日帰りだから、奥山村までは行くことができません。だから、東京近郊で考えることにします。」
これが、概要でした。
平野君と谷口君は、しばらくその紙をにらんでいまいた。
平野君が顔を上げると、
「1年目はいいですが、2年目3年目はどうしますか?」
「うん?」
福田さんは平野君が言うことの意味がいまひとつよくわかりません。
平野君が続けます。
「1年目に参加した子たちは、2年目も3年目も同じ活動をしますか? 新しい参加者はどうやって増やしますか?」
「なるほど、そうか…そうだな。2年目、3年目のプログラムをステップアップするような活動にしないといけないかもしれないですね。」
「ハイ、考えましょう。」
谷口君が続けます。
「田植えとか稲刈りとか、米作りのプログラムが入れられないでしょうかね。奥山村でできればいいですよね。今回のキャンプで保護者から、農産品の直送の希望が出ていますよね。」
「なるほど…そうだな」
福田さんは、本当に二人の視点に関心しました。
しかし、その意見を良しとしたときの福田さんの判断も早いものでした。
では、一年間のプログラムを3年間で、少しづつステップアップしていくものにしましょう。
そして、その中に田植えと稲刈りを入れましょう。
「この年間プログラムは、谷口君考えてもらえますか?
平野君はスタッフトレーニングのメニューを研究してください。
私は、三枝君の件を進めるために、もう一度、奥山村に行ってきます。
併せて、私の住むところも決めて来ようと思っています。」
谷口くんがメモを取りながら
「3年間のステップアップとうことですが、ステップアップと言うより、3種類と考えてはどうでしょう。」
平野くんが、
「どういうことだい?」
「俺ボーイスカウトにいただろう? 毎年同じことやるんだ。でも、2年目3年目はだんだんリーダーになっていくんだよ。それと、興味がわいたことをつきつめていく仕組みもあるんだ。」
「なるほど、そうなってくれたら、料金を少しだけ安くすると言うのもいいかもしれないな。」
「それは難しいでしょう。リーダーになれないような子がリーダーとしてと言ってきたら困るのではないでしょうか。」
平野くんは冷静に言う。
「確かにそうだな。」
福田さんは腕を組んだ。
「まずは、料金のことは考えないで、プログラムを考えていいですか? 料金体系とかは平野君に任せますから。」
「いいかね、平野君。」
「はい、わかりました。」
2人は、メモを取ると、各々わかりましたと返事をしました。
数日後、福田さんは電車を使って奥山村に入りました。最寄駅は奥山駅。駅から歩いて、20分ほどで公民館に着きます。節子さんと、省三さんと、そして、勉君も来てくれることになっています。勉君は勤務中なのですが、村長に言って、業務で出てくるようです。
福田さんはあえて、電車で行くことは伝えず、歩いて行くことにしました。
村の中を、一人でゆっくり歩いてみたかったのです。
公民館へ向かう道は一度、駅前の大きな道から脇道に入り、坂を下り、小さな川を渡り、再び坂を登ります。その坂道を登りきると、むらのなかにはいっていきます。点在する家々を右左に見て、その途中にある畑になっている色々な野菜を見ながら歩いていると、左手に神社があります。その神社を過ぎて、もう少し家々が立て込んだあたりを過ぎると、公民館です。
その立て込んだ家々の中に節子さんの家も、省三さんの家もあります。
すでに、公民館に行っているのでしょう。どのうちもお留守の様子でした。
公民館が見えてきました。
すると、節子さんが、福田さんを見つけ、
「な〜に、福田くん、歩いてきたの〜。電話しなさいよ、駅まで迎えに行ってあげたのに。」
「いいえ、村の中歩きたかったものですから・・・」
「何、黄昏てるのよ。まったくロマンチストなんだから。」
「良いや、そんなんじゃないですよ。」
「じゃあ、なんで歩いてきたのよ。」
「今度、子供達を電車でこさせたらどうかなと思って、駅から歩けるかなと思って。実際に歩いてみました。」
「なるほど、ただ、黄昏ていたわけじゃないのね。」
そんなことを大声で話しているうちに、福田さんも公民館にたどり着きました。
「もうみなさんお揃いよ。」
「え、皆さんといったって。」
「言っただけしか来ないと思ってるの?」
「え、いったい何人?」
「そんなみんなではないわ、省三さんと堤光さん、省三さんの奥さん、それにうちの旦那。」
「ああ、それなら良いけど。あ〜びっくりした。」
「でも、夜は村長も顔出すって言ってたわよ。」
「うわ〜プレッシャーだな。」
「しょうがないでしょう。そういうもんよ、さっ、入った入った。」
「お邪魔します。」
「お〜来たか。」
省三さんは上機嫌です。
「お、平野はきとらんのか?」
「ああ、すみません、彼らは東京で、別件の仕事と、就職活動中です。」
「就職活動って、あんたと一緒に、ここでキャンプするんじゃないのかい。」
「いずれはそうなると思いますが、まずは、社会人経験をさせようと思っています。」
「なんも、この村で、農業したって、社会人経験じゃろうが。」
と、省三さんは不服そうです。
皆さんと一通り挨拶を済ませた福田さんはおもむろに用意した、計画のペーパーを配りました。
「少し説明させてもらいますね。」
みんなかたづを飲んで福田さんをみます。
「子供たちをよりよく育てるためにこのキャンプをしたいと思います。
しかし、子供が変わるために、年に1回のキャンプでは、無理だと思いました。そこで、毎月の活動をすることにしました。
とはいえ、毎月こちらにおじゃますのは無理なので、普段の月は都市近郊で活動をします。
夏休みと冬休にはこちらにキャンプに来ます。3泊程度と思っています。
それから、田植えの時期と、稲刈りの時期にも来ます。これは1泊で。
計5回お邪魔する予定です。
それとは別に、夏休みに一般の子供を募集してキャンプを2回、冬休みに1回、春休みに1回の計4回
都合9回のキャンプを、こちらで、お世話になろうと思っています。
いかがでしょう。」
「いかがも何も、わからないのよ。何にも。わかっているのは、この夏休みはとっても素敵な時間を私たちは過ごさせてもらったって言うこと。そして、またあんな時間が過ごしたいと思っているということよ。」
「ですよね。でも私も始めてのことで、どうなるかわからないのです。」
「うんじゃあ、やってみるべ。」
この省三さんの一言は重かったのです。