未定稿小説『奥山村物語』68
2021.3.18
しばらくして、食事もおしゃべりも一段落したころ、グラウンドの真ん中で焚かれていた炎が大きくなりました。
すると、谷口君が、大きな声で、「さあ、みなさ~ん。こっちに集まってくださ~い」
みんな、ぞろぞろと、食事をしていた場所から、火の方に集まっていきます。
「さあ、火を囲んでまるくなりましょう」
「それでは皆さん、手をたたきましょう。まずは一つ、はい」パンと、谷口君がたたくと、みんなもパンとたたきます。
「はい」パンパンパン。するとみんなもパンパンパンと答えます。
そんな風にして拍手が盛り上がっていきます。
その盛り上がりのまま、歌を歌ったり、ゲームをしたりして、楽しみました。
火が衰えそうになると、谷口君の目配せにこたえて、三枝君がそっと薪をくべてくれます。
いつの間にか、村長も来ていたようです。輪の中で楽しんでいます。
村の人たちと子供たちが一緒に、楽しいひと時を過ごしました。
少しづつ火が衰えてきて、みんながなんとなく、火の回りに座り静かになったところで、谷口君が、
「今夜は、村長さんもいっしょに楽しんでくれました。せっかくですから、お休みの前に、村長さんに一言ご挨拶してもらいましょう」
村長さんは、ためらうことなく、立ち上がりました。いつものようなひょうきんさはなく、静かに立ち上がったのです。村の人たちは、ちょっとびっくりしました。
実は、ゲームで盛り上がる最中に、村長に、最後に挨拶をしてくれるように、それも、静かに立ち上がり、少しまじめな挨拶で、子供たちへのメッセージをお願いしたいとささやいてあったのでした。
村長は、
「みんなが見ているこの火は…ついこの前まで、この村では、この火で、お風呂を沸かしたり、ご飯を炊いていました。電気やガスはなかったからです。
でも、電気やガスが整備されて、便利になってきました。薪でお風呂を沸かすより、ずっと簡単に短い時間でお風呂は沸きます。ご飯も炊けるようになりました。でも、お米や、とうもろこしは、種をまいてから、身がなるまでの時間は、変わりません。昔から、ずっと昔から、今も、電気やガスが来てどんなに便利になっても、できる時間は短縮はできないのです。そんな時間がかかるものを作る暮らしを、都会の人は嫌がるけれど、丁寧な暮らしと感じてくれると嬉しい。そんな暮らしがいいなと思ってほしい。そしていつか、この奥山村に住んで欲しい。」
みんなが、大きな拍手をします。
あかりちゃんが、「わたし住む〜」と手を上げました。
みんなどっと沸きます。