未定稿小説『奥山村物語』49
2020.10.25
そんなことは、どこ吹く風で、子どもたちは、どんちゃかどんちゃかと歩いていきます。
先頭に立っているのはいつものテル君と寛太、それに今年から、参加のつむ六…つむじ六つあるからです。本名は石田鉄平。しかし、もう、『つむろく』と、だれもが呼びます。
このつむろく君がなかなかの曲者です。一晩泊って、だいぶ慣れてきたのか、昨日まではおとなしかったのが、朝ご飯あたりからだんだん本音が出てきました。
今朝の食事の時には、ひたすら自分の食べるものを準備し、どんどん食べ、「ハイ」ご馳走さまという感じでした。
よく言えば、マイペース、厳しい言い方をすれば、自分勝手という感じです。担当の川上さんも、少しまゆをひそめていました。
しかしそんなことはどこ吹く風で、先頭をずんずん歩いていきます。
省三さんのたばこの話の直後、先頭のつむろく君が、道の石をけって、田んぼにちゃぽ~ンと落ちました。
川上さんが、慌てて注意しますが、つむろく君は、「は~い」と、返事はしたものの、どこ吹く風です。
寛太君も、テルも顔を見合わせますが、何も言いませんでした。
それどころか、草をとって、槍のように田んぼに投げ入れたりもしています。
そんなことをしているうちに田んぼに到着しました。
光るさんが田植えの説明をした後、田んぼの畔に一列に並んで、苗をもって、田んぼに入っていきます。
「うっへ~気持ちわり~」
「きったね~」
と、口々に叫びながら、おずおずと田んぼに入っていきます。
一列になり、少しづつ後ろに下がりながら、苗を植えていきます。子どもたちは、おそるおそるという感じです。
中には尻もちをついて泣き出してしまう子もいます。
とはいえ、みんなで半分まで植えたところで、10時のお茶の時間となりました。
農道にブルーシートを広げ、お茶とお菓子を並べます。
もちろん光さんや省三さんも一緒です。そこへ、光さんと省三さんの奥さんや、節子さんと勉君がおにぎりやお茶を持ってきてくれました。みんな大喜びでいただきます。
そんな中、あかりちゃんが、この田んぼはいつから田んぼなの?と、省三さんに聞きました。
う~んそうじゃの…わしが二十歳の時に、ここを切り崩して、田んぼにしたんじゃ。だから…50年以上前ということだな…」
そんな話が始まったのを耳にした福田さんは、つかつかとつむろく君のところに歩み寄ると、
「君はこっちで、おやつにしよう」と、無理やり、省三さんの隣に座らせました。
つむろく君はきょとんとしていますが、福田さんからおにぎりを手渡されて、そのままそこで、ほおばります。
省三さんも、何事もないように話をつづけます。
「はじめは石ころだらけでな…ひとつひとつ、田んぼから石を拾ってな…まともに米がとれるようになるまで、5年近くかかったもんじゃ。」
「5年間も石を拾いつけたの?」と、あかりちゃんは聞きます。
「そうだ、毎日毎日拾い続けたんじゃよ。腰は痛くなるしな…それにな、土がやせていて、たい肥を入れたり、鶏糞と言って、鶏の糞を発酵させたものを入れたりしてな…やっとここまで来たんじゃ。まともに米がとれるようになった時には、こっちはこんなジジイになっちまった。ハハハ」
あかりちゃんはうんうんとうなずいています。
つむろく君はその話を、おにぎりを見つめながら聞いていました。
そのあと、つむろく君が、いたずらで、石などを田んぼに投げ入れることはなくなりました。