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未定稿小説『奥山村物語』

未定稿小説『奥山村物語』15

2020.4.7

近くの居酒屋に繰り出した面々は、ビールやジュールで、カンパ~イと、声を合わせました。そこから後は、もう、福田さんはもみくちゃといってもいいかもしれません。

次回はいつするの。

またスタッフをしたい。と、福田さんに皆詰め寄ってきます。

大いに盛り上がった、打ち上げでした 。



本格始動へ動き始める


その次の日、福田さんはさっそく村長に電話をしました。

「最後のご挨拶もせずに、失礼してしまって、申し訳ありませんでした。」

「いいや、いいや、君たちが帰った後も、村中、大騒ぎだよ。今度はいつ来るんだ、いいことをしてくれたとね。私も鼻が高いよ。挨拶なんて気にしないでくれや。それより、今度の打ち合わせに君はいつ来るかね。みんなで歓待するよ。」



「ありがとうございます。こちらで後始末の、めどがつき次第お伺いします。」

「できるだけ早く来てやってくれ、みんな首を長くしてマッチョるから。」

「わかりました。できるだけ早く伺います。」

電話を切って、続けざまに、節子さんに電話を入れましたが、話し中が続きます。

3度目にダイヤルをして、やっとつながりました。すぐに節子さんが出ました。

「節子さん、福田です。」

「福田く~ん。お疲れさま。」

「本当にありがとうございました。」

「昨日から今日、私はずっと電話にかじりついたままよ。」

「え、どういうことですか?」

「もう村中の人が電話かけてきてる感じ。」

「何を言ってきてるんですか?」

「いろいろよ。一番多いのは、ふろに来た子のうちに、野菜送ってやりたいから住所教えろっていう電話かな。次に、次の時には自分のところでも子供風呂に入れてやるぞという電話。あとは、おばあちゃんたちの思い出話といい子だったという自慢話。もうまるで孫の自慢話よ。」

「それはそれは、すみません。苦情はありませんか?」

「ないわね、村の中でこれだけ評判になっちゃうと、批判したくてもできないわね。でもそれは気を付けないといけないこと。ないことはないだろうから。」

「ありがとうございます。気を付けます。」

「でも、大成功だったね。」

「はい、おかげさまで。で、さっそくで恐縮なんですが、今後のことをご相談したいんですが、節子さん東京にいらしゃることなんてないでしょうか? え~福田君が来なさいよ。」

「はいもちろん伺いいますが、その今後のことを相談に伺うと、きっと村中で大騒ぎになって、相談どころじゃなくなっちゃうような気がするんですね。」

「う~ん確かにそうね。でも、あたしも東京に行く予定はないな~」

「わかりました。陽子さんとも相談して、何か考えます」

「悪いわね」

「大丈夫です。また連絡します。」


次は陽子さんへ電話です。


「こんにちは、福田です。」

「ああ、福田くん、色々ありがとうね。」

「いいえ、こちらこそ、寛太君何か言っていましたか?」

「ええ、楽しかった楽しかったって、大騒ぎよ。でもね、武雄君と会えなかったのが残念だったみたい」

「あっ」

福田さんは声を上げました。

「どうしたの」

「地元の子どものことを忘れていました。」

「だいじょうぶよ~ また、遊びに行かせるから。」

「いいえ、そういうことではなくて、ふるさとになるなら、子供の同志のつながりも必要ですよね」

「まあそうだけど。それはそれで考えましょう、それより、今日はな~に」

「ああ、用件は、この次のキャンプをどうするか相談したいんです。」

「じゃあ、思いで会の時に、お母さんたちに色々聞いたらどうかしら。」

「いや、できれば、思いで会までに次の計画立てて、思いで会で発表したいと思いまして。」

「なるほど、じゃあ、参加した人で、知り合いのお母さんたちに声かけて、お茶会でもしましょうか?」

「そうしてもらえますか?お手数ですが。」

「お安い御用よ 」


半月ほどのち、キャンプを始める時に陽子さんと相談をした喫茶店で会おうと、陽子さんから連絡がありました。

福田さんは少し早めに行って、待っていました。

陽子さんと4人のお母さんが楽しげにおしゃべりをしながら入ってきました。

陽子さんが福田さんに気付くと、手を挙げて、近づいてきます。

お母さんたちは、皆さん小さく会釈をして、席につきます。

陽子さんが紹介してくれました。

「こちら、山口さん。お子さんはマーボー君って、言った方が分かるでしょう?」

「はい、」

「こちらがみっちゃんのお母さんで、井上さん。それから、輝君のお母さんで澤村さん。」

「うちの子、うるさくてご迷惑かけましたでしょう」

「いいえそんなことないです。かえって、色々助けてもらいました。」

「そうですか、それならよかったですが。」

「最後、こちらが、あかりちゃんのお母さんで、竹島さん」

「竹島です。お世話になりました。夜泣きしちゃったみたいで。本当に申し訳ありませんでした。」

「いいえ、お気になさらないでください。いい子ですよね。」

コーヒーなどの注文を終えて、お母さん方が前のめりに、自分の子の話を聞きたいという感じがありありだったので、福田さんそれを制してこう言いました。

「今日は、皆さんのお子さんのことをお話しよりも、次回、またキャンプをするとしたら、どんなことをお望みか、おうかがいしたいと思いまして。お子さんのことは、思いで会の時にいろいろお話させてください。」

「はい、わかりました。」と、輝君のお母さん、澤村さんが答えました。ほかのお母さんもうなづきます。

「すみませんこちらの都合を申し上げて」

「いいえ、陽子さんからもうかがっていましたので。でも、ついお会いしたら、色々聞きたいと思ってしまって。ごめんなさい」

「いえいえ、お気持ちはよくわかります。」

「そこで、今回のようなキャンプをまたしようと思ってはいるのですが、皆さんは、どう思われますか?」

みっちゃんのお母さんが「ぜひ参加させたいです。子供もすごく楽しかったって、言っていますし。」

「同じ場所でされる予定ですか?」と聞くのはあかりちゃんのお母さんです。

「どうしてですか?」

「うちの子は、また、あそこに行って、トウモロコシを育てるんだといっているんです。そんなキャンプになりますかしら」

「なるほど、あかりちゃんは、リックいっぱいにトウモロコシをお土産にもらっていましたしね。」

「うちの子も、野菜をたくさんいただいてきたんですけど、おいしくて、またあのお野菜をいただくことはできませんかしら、もちろんお支払いもしますから。」と聞いてきたのは、マーボーのお母さんです。

「なるほど、今のところ、そんな予定はありませんが、地元の方も、送ってあげたいとおっしゃっているようですから、検討しましましょう。先ほどの竹島さんのお尋ねの件ですが、会場は同じ奥山村でしようと思っています。子どもたちの故郷になってほしいですし、できれば、皆さんにふるさとのような場所になればいいなと思っているので」

「だとしたら、私たちもうかがえるような企画もあると嬉しいですね。」

「そんな企画があったら、ご参加いただけますか?」

「もちろんです」

「私も子供たちがキャンプしているところ見てみたいです。」

「ファミリーキャンプなんて言う方法もありますよね」

「それ楽しそう」

お母さんたちは盛り上がっていきます。すっかり奥山村に行く気になっています。

福田さんは陽子さんと目を合わせて、微笑みました 。


「ほかに、何かご希望ありますか?」

「ちょっと思ったことがあるんですが。」と、テル君のお母さん。

「はい、何でしょう」

「帰ってきて三日ぐらいはお茶碗とか洗ってくれたり、お手伝いしてくれるようになっていたんですが、昨日あたりはもう、すっかり元に戻っちゃって。まあ、少しはまだ手伝うときもあるんですが、元の木阿弥に戻るのも時間の問題かなという感じなんです。」

「あら、うちもです。」と、みっちゃんのお母さんも相槌を打ちます。

「そうですか…」

「あのままいい子でいてくれたらよかったんですが…ま、そんなことはないですよね~期待しすぎちゃいけないですよね」とテル君のお母さんは声をたてて笑いました。

福田さんは少し考えました。

一瞬、静かな時間が流れました。

お母さんたちの視線が、福田さんに集まります。

福田さんは、「キャンプはなぜすると思われますか?」

お母さんたちはきょとんとしていました。

「私たちは、お母さま方と一緒に子ども達の成長を見守りたいと思っています。それも、キャンプでお預かりしている期間だけでなく、キャンプとキャンプの間も含めて、子供さんが成長していくのを一緒に見守らせていただきたいと思います。」

「見守るって…どういう意味ですか?」と、マーボーのお母さんが怪訝そうに聞き返します。

「学校の教育以外にも、社会教育という、教育の考え方があります。これは、地域で子供たちを見守り育てるという意味の教育だと思っています。」

「でも、福田さんは、私たちの地域にお住まいではないし、私たちの住んでいる地域はバラバラですよね。」

「はい、でも、今回子どもたちとキャンプをして、こんな考え方をしたいと思うようになったんです。」

それは…反省会で、福田さんがスタッフに語ったことでした。

奥山村が地域なんです。奥山村を故郷とする子供たちが、東京で暮らしている。その子たちを、奥山村の地域で考え、育てていってあげることを考えたらどうだろうって。今回のキャンプで思うようになったのです。

ちょっと、語弊があるかもしれませんが、子供たちの故郷に、皆さんの故郷に奥山村がなった時、奥山村の地域の人たちも含めて、皆さんのお子さんの成長を見守るという思いがあってもいいんじゃないでしょうか?

お母さんたちは、ちょっとピンとこない感じでした。

「そうはいっても暮らしているのは、東京ですよね。」とみっちゃんのお母さんが言います。

「そうですね…」

「でも、私少し期待します、そんな考え方。うちのあかりは本当にふるさとのように思っているみたいですし。お世話になったおばあちゃんのこと、本当のおばあちゃんのように言ってるんですよ。うちは、ふるさとと呼べる田舎ないですし、おばあちゃんも、おじいちゃんももういないものですから」

「田舎から、野菜とかが送ってくるなんて、いいわね」と、マーボのお母さんはやはり、野菜の直販に期待しているようでした。

「まだまだ考え始めたばかりなので、こういう方法でということがあるわけではないのですけれど…なんとなく思っていることなので…」と福田さんは少し話をトーンダウンさせました。


お母さんたちとは、そんなお話をして、お別れすることにしました。

福田さんは大変満足しました。

課題はいくつかあるものの、奥山村でのキャンプが間違った方向ではないことを確認できたのですから。


思い出会の準備はやはり谷口君を中心に着々と進められました 。



奥山村へお礼に行く


思い出会の準備は、谷口君に任せて、福田さんは平野君を誘って、奥山村に、お礼に伺うことにしました。

秋の気配がたつ頃、公民館に村の方々が集まりました。

「公民館にこんなに人が集まったのは初めてじゃないかな。地域の人ばかりか、隣の地域の人や、村の議員たちまできちょる。」

省三さんが、福田さんと節子さんにささやきました。

ささやいたといっても、地声の大きい省三さんの声はみんなに聞こえています。

始めの説明会の時と同じように、節子さんのだんなさんの勉さんが司会をしてくれます。


「え~皆さんご静粛に」と勉さんが声を上げますが、ざわつきはなかなか静かになりません。

平野君が拍手をし始めました。それを見て、福田さんも、節子さんも勉さんも拍手を始めます。省三さんも、するとだんだんとみんな拍手をし始めて、その拍手が静まると、会場は水を打ったように静かになりました。

勉さんは、平野君に微笑んで小さく頭を下げると、

「では皆さん、今日は、福田さんと平野君が、先日のキャンプのお礼とご報告にお越しいただきました。」

「まずは、村長からご挨拶をいただきましょう」

村長が、「今回のキャンプは、この村に驚くほどの活気を与えてくれました。そうですよね皆さん」

拍手が起こります。

「私は、この村にあのようなキャンプが引き続き来てくれることを願ってやみません。福田さんいかがですかな。」

福田さんは黙って頭を下げます。

「そのために、私は、役場をあげて、支援したいと考えています。いいですよね皆さん。」

再び会場は拍手に包まれます。

「もちろん皆さんも、このキャンプを応援してくださいますよね。」

大きな拍手です。

「そういうわけです。福田さん、本当によろしくお願いしますよ。」と、村長は福田さんに握手を求めてきます。

握手を終えると、

「わしのご挨拶は以上です」

省三さんが、

珍しく短くていい挨拶じゃったな…とつぶやきますが、地声が大きい省三さんの声は会場内に響き渡り、会場は笑い声と拍手に包まれました。

村長は、「またこれだ~」と笑います。


ひとしきり拍手が収まると、勉さんが、

「では福田さんにご挨拶をいただきます」

ひときわ大きな拍手が起こります。