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未定稿小説『奥山村物語』

未定稿小説『奥山村物語』6

2020.3.8

田舎に、自然の中に故郷のない子供たちに、奥山村で田舎の体験をしてもらいたいと思います。

そうして、その子供たちが奥山村を第2の故郷のように思ったら、奥山村の自然を大切に思うでしょう。

そうなれば自然破壊とかも少なくなるだろうし、そして、いずれ都会を離れて、第2の故郷の奥山村に戻る人も出てくるんじゃないかと思うのです。

そうすれば、都会の一極集中も自然に解消されるのではないでしょうか。

急激ではないですが、時間もかかりますが。東京一極集中は戦後の流れと考えたとしても、60年以上かかって進んだことです。60年かけて戻しましょう。

「そんなことのために子供をキャンプに出すんじゃないわ。」と、言われるかもしれませんね。確かに、それは、結果的に出てくる副次的成果と言えるかもしれません。では、本当に求める成果は、お子さんが、自然な体験を自然の中ですることです。

今、お子さんが10歳だとしたら、10歳の時にしなくてはいけない体験をしてほしいのです。

今は勉強しなさい、それは後でねということありませんか? 

そのあとでねは、あとではできないことが多いのです。

ですから、今、子どもがしなくてはいけないこと…それは、子どもを自然の中に放り出しておいて、子どもがしたいと思うことです。

生き物として、10歳の時に体験しておかなくてはいけないことは、本能的にしたいと思うはずです。

動物の本能として。その体験をお手伝いするのが私たちのキャンプの目的です。

そういう体験をしておくと、将来、子どもたちは、社会性の動物として大きな能力を発揮することができると思うのです。

喧嘩もするでしょう、擦り傷も、虫刺されも、たんこぶも、みんな子どものときの思い出にあることでしょう?

お子さんにも体験させてあげましょう、そして思いで作ってあげましょう。大丈夫です、大けがや、大事故にしないように私たちがいます。いかがでしょう。お許しいただけますか?


話が終わると、お父さんお母さんから拍手が起きました。

この拍手は、賛同の拍手でした。

とは言いつつも、びっくりすような質問も出ました。テントにはエアコンはついているのでしょうか?とか…が、千代田市のときの勉強が役立って、福田さんは落ち着いて答えてあげることができました。

父さんお母さんも安心して、そして、そうなんだと、腑に落ちてお帰りになったようです。


実はこの間ちょっとした工夫を平野君はしてくれました。


それは、一緒に来た子どもたちは、ずっと一緒に説明会を聞くのではなく、子ども達と親御さんが一緒に聞く必要があるときは一緒に聞きますが、その後、親御さんに聞いてもらえばいい説明は、子どもだけ集めて別の場所でリーダーたちとグループ分けをしたりゲームをしたりして過ごしたのです。

すでにここでキャンプが始まっているのでした。

これは、キャンプ当日になって、大きな成果を発揮することになります。



奥山村ふるさとキャンプ始まる 


さて、そのキャンプ当日です。48人のこどもは誰一人お休みはありませんでした。

数日前に、スタッフは電話をかけて、キャンセル待ちの子どもたちにお詫びをしました。

同時に、参加の子どもたちに風邪ひかないように、体調崩さないようにねと電話を入れたのでした。

平野君の運営は、本当に微に入り細にわたりでした。

電話をしたスタッフは説明会で子どもの顔と名前が一致していますし、子どももスタッフの顔がわかっているので、電話もスムースでした。

なんと、平野君はその電話をさせるために、スタッフにテレホンカードまで配っておいたのでした。


集まってくる子どもたちは、自分のリーダーを目指して走ってきます。

リーダーは子どもの名前を呼んで出迎えます。

説明会に来なかった子供も、リーダーは写真を見て、名前を頭に叩き込んでありました。

そんな子のほうが、リーダーは丁寧に出迎えます。

自分の名前を伝え、君と4日間一緒に過ごすリーダーだからよろしくねと、出迎えるのでした。

子ども達は自然にグループごとになります、各リーダーは全員集まったかどうかを平野君に報告します。

集合時間のずいぶん前に全員が集まってしまいました。

お父さんやお母さんは、ちょっと取り残された感じで、おろおろしています。

平野君が、静かな口調で、

「では、出発式を始めましょうか」

子供たちはリーダーの誘導で、静かに平野君のほうを見つめました。

平野君は、福田さんを促します。子供たちの前に福田さんが進み出ました。

福田さんは子供たちへのあいさつとお父さんお母さんへのあいさつを手短にではありますが分けてお話しました。

お父さんお母さんは大きくうなずいていました。

そんなセレモニーも終わり、子どもたちがバスに乗り込みます。

それでも不安そうなお母さんがいます。

福田さんはそんなお母さんを見つけるとやさしく話しかけました。

「何か御心配事がありますか?」

「うちの子、一人で出すのはじめてんです。」

「大丈夫、きっとたくましくなって帰ってきますよ。お母さんがびっくりしてしまうほどね。」と微笑みました。

お母さんも安心したようにうなずきました。

また別のお母さんに歩み寄ると

「うちの子、好き嫌いが激しくって…」

「わかりました、ちゃんときいています。でも、キャンプ中に一つでも食べられるようになるといいですね。特に野菜は新鮮でおいしいですから、きっと大丈夫ですよ。」

「そうだといいのですが、よろしくお願いします。」


そんな会話を交わしているうちに子供たちはバスに乗り込みました。

もちろん寛太君も参加者の一人として、バスに乗り込みました。

福田さんは平野君から、全員乗車の報告を受けると、お父さんお母さんに、深々と頭を下げて「行ってまいります、お迎えは、8月4日日曜日17時にここでお願いします。」と言うと、笑顔でバスに乗り込みました。


バスの中は、てんやわんやです。

カメラマン兼記録係の伊藤さん。

グループのリーダーをまとめる谷口君。

そして、実質的に全体を取り仕切る平野君。それにリーダーが6人。福田さんの大学の学生さんです。川上さんと今野さん、それに神保君らが乗り込んでいます。

看護師さんは、奥山村の診療所とのタイアップで乗り切ることにしたので、奥山村までみんなで何とか無事に乗り切らなくてはなりません。

しかしそんな心配は、無用でした。

谷口君はバスガイドさんすら笑い転げてしまうほど、楽しく子どたちとゲームをしてくれました。

子どもたちは大はしゃぎです。

合間に、川上さん達がおやつを配ります。

これも大喜び。なぜなら、おやつは持ってこないでねと言ってあったからです。

4日の間、おやつが傷んで、おなかを壊したりしたらいけないと判断して、おやつはまとめて配ることにしたのです。


そんなことをしているうちに、バスは無事に奥山村の公民館に到着しました。

奥山村の公民館に節子さんと勉君。それに村の人が何人かお出迎えしてくれました。

子供たちは、畑の真ん中にある公民館に興味津々。

駐車場兼運動場兼活動広場が公民館の前に広がっていて、その周りを櫻の木々が囲んでいます。

公民館は平屋で、30畳の畳敷きの部屋がふたつと10畳の部屋がふたつこちらは板張りの部屋です。それにキチン兼ダイニングの部屋があります。

何とも贅沢な平屋です。

男の子と女の子が各々畳敷きの30畳の部屋に分かれて荷物を入れます。

グループは男の子女の子が混ざった5グループですが、寝るときは、男女それぞれに分かれます。

荷物を置いたら、散歩に出発です。

公民館前の広場に集まりました。

福田さんはみんなの前で、こんな話を最初にしました。



「今日から帰るまで、みんなはここ奥山村で暮らします。ですから4日間は奥山村村民です。ですから、今から村長さんに挨拶に行きます。

途中で村の人にあったなら、きちんと挨拶をしましょう。そして、自分が何というものか、ちゃんと自己紹介しましょう。

子どもたちは一斉に「は~い」と返事をしました。

説明会のときに、リーダーたちと子供たちは一緒に遊んでいたこともあり、とても打ち解けた雰囲気です。バスの中でのゲームなども、功を奏しているようでした。

福田さんは滑り出し順調だと思いました。


ではしゅっぱ~つと、言うと、グループごとにリーダーを先頭に歩き始めました。


8人づつのグループが6つ。

田中裕子さん、川上明日香さん、今野美紀さん、福野哲也君、神保正一君、野口透君、それぞれリーダーです。


田中さんは、リーダータイプ。男勝りといったところでしょうか。

子どもたちと一緒にいると生き生きしています。

グループの先頭を切って歩きはじめました。


川上さんは、お母さんのようなタイプです。

みんないくよ~と、いって、歩いていきます。


今野さんは、優しいお姉さんタイプ。

さ、行きましょう。といって、子供たちと一緒に歩き始める感じです。


福野君はスポーツ好きのノリのいいタイプです。

子どもたちのいい兄貴分です。


野口君はノリのいいお調子者

自分がいたずらを仕掛けていくタイプです


神保君はおっとりタイプですが、結構几帳面なようです。

ひとりひとりに気配りを忘れません。

神保君は最後のグループとして、出発していきました。


福田さんは後ろからついていきます。

平野君と谷口君は勉君が公民館に用意しておいてくれた軽トラックで先回りをして村役場に向かっています。


この散歩は、実は、福田さんやスタッフにとってちょっとした冒険なのです。

公民館から村役場までは4キロ弱あります。普通に歩くと1時間ほどかかります。子どもたちがこの散歩での一時間を、子ども達が歩き通せるかどうか。どうやって移動させるか、バスを使うかどうか考えたのですが、ちょっとした冒険をしてみよう。

少し心配ではありましたが、子ども達に歩かせてみようということになったのです。

歩いて、あの風景を見せたいと平野君はいいました。

それに、道すがら、村人との交流もあるかもしれないと思ったのでした。


役場への道すがらの景色は、まさに里山の風景というにふさわしい素晴らしい景色です。

公民館を出て、道を右に折れて下っていくと、目の前に、今は緑の田んぼが広がります。そしてその先に、小川が流れ、そこにかかった小さな橋を渡ると、木々が道にかぶさるように茂っているのです。そこを上ると、杉並木の道になります。昔の街道だったのでしょう。太い杉が何本も連なっています。

そしてまた、田んぼの中に入っていくという具合です。


途中の田んぼで作業をしている人がいました。

田中さんのグループが通りかかると、子供たちが、元気良く、口々に「こんにちは~」と、挨拶をします。

すると、そのおじいさんが、「お~、いよいよ来たか~。元気がいいの~」と、答えてくれました。

すると、田中さんのグループの一番の元気者の通称テル君が「僕は、テルと言います。よろしくお願いしま~す」と、挨拶しました。

すると、みんな次々に名乗るではありませんか。

おじいさんは、驚くやらうれしいやらです。

みんなの名前を聞き終わると、「そうか、わしは、堤光です。この辺りは堤という名字が多いから、光さんと呼んでくれ。」と答えてくれました。

「わかりました、光さん。よろしくお願いしま~す」と、子供たちは口々にあいさつしながら、進んでいきました。

田中さんは最後に、「お忙しいところすみませんでした。」と、あいさつをすると、「なに、な~に、楽しい子たちじゃ、今夜うちに来るのはどの子かな?」と貰い湯の子は誰かを聞かれました。まだ田中さんもわかっていなかったので、「すみませんまだわからないのですが…」「そうか~テル君だといいがな~」と、さっそくお気に入りになったようでした。

実は、各グループは、同じ道を歩いているのではなかったのです。

夜の肝試しの散歩から、そのまま、貰い湯に行く計画のですが、その貰い湯のおうち方面の道をそれぞれのグループは歩いていたのです。

ですから、おうちの近くの田んぼで働いている人たちは、そこで、すでに、今夜お世話になる子供たちとご対面する状況になっていたのです。