未定稿小説『奥山村物語』13
2020.4.5
話を終えると、谷口君は静かに立ち上がると、ふすまを閉め、スタッフの部屋に戻っていきます。
おかげで、予定時間にスタッフのミーティングができました。
この晩、スタッフは大変でした。
ひとりひとりの親御さんあてに、キャンプ中の子供たちの様子をメモにしていきます。
翌日の解散の時に、親御さんに渡すためです。
福田さんの希望でした。
福田さんは全員のメモに目を通して、行きました。
そして、必要に応じて、福田さんもメモをに書き添えをしていきました。
そのため、スタッフはずいぶん遅い時間に寝ることになりました。
しかし、書き終えた人たちは一様に満足感に満ちた顔をしていました。
翌朝はいよいよ帰る日です。
朝から、公民館の片づけで大忙し
子どもたちは、お風呂を借りたお家に、お礼のお手伝いに出かけていくのです。
いつものように朝ごはんをすませると、谷口君が子供達に丁寧に何をするのか、説明をします。
玄関を履いたり、窓を拭いたり、お庭の草むしりをする。
間違っても、おうちの中で、お茶とお菓子をご馳走になってはいけないということ。お土産をもらったりしてはいけないということを、話しました。
そして、1人でそのお家にまで行くこと。
交通事故に注意すること、そのために、きちんと道のは実行を歩いて行くこと。など、丁寧に、話をしました。
そして最後に、持ち物の確認です。
荷物の奥底に、今まで使わずに眠っていた、雑巾を引っ張り出させて、持って行くように言いました。
「この雑巾で、お掃除とかしてくるんだからね。」と、谷口くんは念を押しました。
これも福田さんが、出発前に考えていたアイデアでした。
ただ行ったのでは、お手伝いをしないで終わってしまうかもしれないから、いしひょうじとして、ぞうきんをもたせようじゃないか。と、いうわけです。
子どもにとっては、案外、大冒険です。
道は覚えているつもりでも、今までは友達と一緒だったり、リーダーがいたりでした。
しかし今朝は、1人で行って、1人で帰ってくるのです。
みんな、公民館から出るときは、少し不安な顔をして、うしろをふりかえりふりかえりあるきだします。
リーダーたちが、笑顔で手を振っています。
実はリーダーも少し不安なのですが、それを押し隠して、明るく手を振ります。
ところが、お家では、心配なお爺さんやおばあさんが戸口に出てまっていたり、途中まで出迎えにきているお家もあったのです。
みんな、そんな、おじいちゃん、おばあちゃん、おじさん、おばさんの姿を見つけると、手に持った雑巾を振りながら、駆け出していきました 。
あかりちゃんは、おばあちゃんを見つけると駆け寄っていって、しっかりと抱きつきました。
おばあちゃんも、「おはよう」といって、頭を優しく撫でてくれます。
そして、「さあ、今日は、一緒にお掃除をするんじゃろう」といって、手を繋いでうちに向かいました。あかりちゃんは、「うん、雑巾持ってきた」と、雑巾を振ります。
おばあちゃんは嬉しそうに、ウンウンと頷いています。
うちにつくと、「うんじゃあ、まずは、玄関の掃除でもすべえか」と言ってあかりちゃんと、玄関を一緒に履いたり、上がり框を拭いたりしました。
「ありがとうな。おかげで綺麗になったよ」
「他のところもお掃除しようよ」と、あかりちゃんが言います。
「そうだな、でも、もう時間だで、帰らないといけないんだよ」
「え〜まだだいじょうぶだよ」
「ばあちゃんも、もっと一緒にいたいだけど、時間は守ってくれって言われてるさけ〜」
「わかった・・・」
あかりちゃんも、朝、谷口くんに言われたことを思い出して柱時計を見上げました。
確かに帰らなくてはいけない時間になっていました。
おばあちゃんは、公民館まで一緒に行くべ。と言ってあかりちゃんと手を繋いで、歩き出したのです。
途中であかりちゃんは、「おばあちゃん・・・また来ていい?」と、おばあちゃんを見上げます。
おばあちゃんは、「もちろんだ、いつでもおいで。お父さんやお母さんと一緒に来ればいい。ばっちゃんちは、だだっぴろいべ、何人でも泊まれるから、みんなでくるとおいいべさ。」
あかりちゃんは嬉しそうに、大きくうなづきました。
省三さんのところに行った、三枝くんはおじいさんと一緒に軽トラックに乗ると、畑に行ってスイカの収穫を手伝いました。
収穫をしながら、省三さんが、「うちで辛いことがあるか?」と聞くと、三枝くんはただ、小さくうなづきました。
「おめえぐらいになれば、もう1人で、電車にでも乗れるべ。いつでも、おらのところに遊びにこ。夏休みなんか、なんぼうちにいてもいいから。ほんで、こうやって、俺と一緒に畑するべ。俺も助かるしな。なんだったら、少しバイト代出してやってもいいど、電車賃ぐらいにはなるべ。」と笑いました。
「本当にいいですか?」「ああ、本当だ。ただ、うちの人に黙ってきてはいけねど。ちゃんと断って来。」「はい!」
三枝くんの顔は輝きました。
2人は時間ギリギリまで、畑仕事をすると、そのまま、軽トラックで公民館に向かいいました。
三枝くんは、1人で歩いて帰らないといけないと行ったのですが、省三さんが、「時間がすぎちまったから、俺が、勝手にそうしたってことでいいだ。」といって、そのまま車を走らせました 。
当然、福田さんも、谷口くんも、スタッフのみんなも苦笑いです。
1人で返してくれるようにお願いしていたにもかかわらず、ほとんど全ての子供が、おじいちゃん、おばあちゃんと手を繋いでくるか、軽トラックに乗って帰ってきたのです。
「バスの出発の時間まで、昼食の時間を含めて1時間以上あるのに、どうしたものか。」福田さんは笑顔のまま、そんな風に呟きました。
しかし心配は、無用でした。
公民館の台所で、おばあちゃんたちは手早くお茶を沸かすと、子供達に邪魔にならないよう桜の木下に陣取り、おしゃべりをしながら、帰り支度をする子供達を眺めているのでした。
お昼ご飯は、近くの仕出し弁当屋さんにおにぎり弁当を頼みました。
あっという間に平らげると、子供達は、すぐに、帰る支度をはじめます。
バスはもう来ています。
子どもたちは、そのバスを見て帰るのだということを実感しているようでした。そして、おじいさんたちとバスを交互に見ています。
谷口君が、公民館の前の広場に子供たちの荷物を集めます。
荷物を一か所にまとめ、公民館の掃除分担を伝え、みんなで掃除に取り掛かります。
掃除に取り掛かると、おじいさんやおばあさんも、手伝い始めてくれました。
楽しげに、しかし少しだけ寂しげにお掃除をしています。
省三さんは、軽トラに寄りかかりながら煙草をふかし、微笑んでいます。
福田さんは省三さんに歩み寄り
「本当にありがとうございました」
「いや~、あっという間じゃったな。また、こういうイベントしてくれるかの~。村のもんが、こんなに活気づいたのは久しぶりじゃ。」
「はい、必ず、また、実施させていただきます」
「それからあの三枝君のことだが…」
「はい」
「本当に何かあったら預かってやるでな」
「はい、ありがとうございます。そのことは、改めてご報告します」
「うん」
「それに、平野のこともな。ははは」
「はい、ありがとうございます」と、言いながら、福田さんは、公民館の片づけをしている平野君を見て、微笑みました。
あかりちゃんは、おばあちゃんにくっついて、広間の掃き掃除を一緒にしています。
まるで本物の孫とおばあちゃんのようです。
おばあちゃんは既に涙ぐんで、前掛けで目じりを拭きつつほうきを動かしています。
そこに、節子さんの軽トラが付きました。
「早めに来たつもりなのに、なにこれ、みんないるじゃない」
「はいごらんのとおりです。」と福田さんは頭をかきました。
「でも、この風景を見れば、今回のキャンプは大成功だったということがよくわかるわね」
「おっしゃる通りです。」
「節子さんにも、本当にお世話になりました。」
「いいえ、みんなが頑張ったのよ」
そんな話をしていると、谷口君が子供たちを広場に集め始めます。
平野君が走ってきて、かたずけも終わりました 。
「よし、じゃあ、お別れのセレモニーをしよう」
「はい」
そこで、子供たちに福田さんが空りかけます。
「楽しかったかい?」
「は~い!」
「ここで過ごしたのは3泊4日でしたが、君たちこれから何度となく、音連れてほしいと思います。そして、この奥山村が、君たちの故郷になるといいなと思っています。おじいちゃんおばあちゃん、親戚のおじさんおばさんも、みつかったでしょう?」
子ども達は大きくうなずいたり、村の人を見つめたりしています。
村の人たちも、皆うなずき、多くの人が目頭を押さえています。
その村人に向かって福田さんは、
「不遜なことを申し上げましたが、皆さんにも、この子たちの故郷になってあげてほしいのです。東京の子ども達には故郷のない子供がどんどん増えています。この子たちの多くもそんな子たちです。ぜひ、この子たちの故郷になってあげてください。」
「もうそのつもりじゃて」と、省三さんがつぶやきます。
それにこたえるように村の人たちから拍手が沸き起こりました。
福田さんは。深々と頭を下げました。他のスタッフたちも、同様に深々と頭を下げました。
拍手は一層大きくなりました。
福田さんが頭を上げると、「では、みんなお別れを言いましょう。皆さん、お世話になった方の方を向いてください。」子供たちは、おのおの、お世話になったおじいさんおばあさんの方を向きます。
「ありがとうございました」と福田さんが言うと子供たちも声をそろえて、『ありがとうございました~』と頭を下げました。
再び拍手が沸き起こりました。
谷口君が、
「バスに乗り込ませますね。」
「うん、たのむ」と、福田さんがうなづきます。
バスの乗車口には、おじいさんとおばあさんや、村の人たちが、花道を作ります。
子ども達はその間を通って、バスに向かいます。
あかりちゃんはおばあちゃんにしがみついて離れません。今野さんが、やさしく促していますが、泣きじゃくるばかりです。
省三さんは、三枝君の方を何度もたたいて、「いつでもこいや」
「何かあったら電話してくるんじゃぞ。」と、言いながら、涙ぐんでいます。
ほかの子ども達も、皆、多かれ少なかれ、別れを惜しみ、涙ぐんでいます。
節子さんは寛太君に「お母さんによろしくね」と、笑顔です。周りのお別れとはちょっと違うお別れです。
しばらく、お別れをしながら、少しづつ子どもたちがバスに乗り込んでいきます。
最後にあかりちゃんが、今野さんに伴われて乗り込みます。
全員が乗り込んだのを確かめた福田さんは、村の人たちに深々と頭を下げると、「後日また、ご挨拶に伺います。本当にありがとうございました。」と、言うとバスに乗り込みました。
バスのドアがしまり、バスが発車します。
村の人たちは、子供たちの名前をよんで、ちぎれんばかりに手を振ります。子供たちも、涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら手を振っていました。
バスの中はそれからしばらく静かでした。
しばらくして、ざわつき始めること、谷口君が、奥山に伝わる昔話の読み聞かせを始めました。
多くの子どもたちは、その話を聞きながら、寝息を立て始めました。
やはり疲れているんだな。福田さんは、子供たちの顔を見回しながら思いました。
そして、スタッフの多くも、眠っているのを見て、よく頑張ってくれたな。と心の中でつぶやきました。