未定稿小説『奥山村物語』39
2020.8.11
その後も、年間事業のチームは何度か集まり、谷口君と平野君と打ち合わせを進めました。
その他のチームも任意で、集まっていたようです。
福田さんはその集まりにできるだけ顔を出しました。
ただ、口を出すことはあまりありませんでした。
そして、喫茶店などで打ち合わせをしている時は、そのお茶代を支払ってあげるのでした。
3月になり、いよいよ説明会が開催されました。
アウトドアショップが持ち込んだ、ザックや靴、カッパなど、カラフルな商品が部屋の後ろに並びました。
入ってきた親御さんは、席につかずに、それらの商品を手にとって楽しそうに眺めていました。
会が始まり、平野君が進めていきます。
途中で谷口君とスタッフが、子どもたちを別の部屋につれて行き、親御さんへ、福田さんと、平野君が説明をします。
すでに昨年の夏に、キャンプに参加した人たちばかりなので、話はとてもスムーズに進みました。
1年間の予定が説明された後、福田さんが、発言します。
「皆さん、ひとつ提案があります」
親御さんが少し緊張します。
「奥山村こども自然学校を始めるにあたり、子供たちと3つ、約束事をしたいと思います」
「まず初めに、集合解散場所の社会教育会館プレイホール6階までの上がり降りは、階段を使うこととしたいと思います。
もちろん体調の悪い子供、体の不自由な子供は免除します」
会場全体がうなずき返します。
「ふたつ目が、移動の時に使う電車の中では、席が空いていても座らないようにしたいと思います」
会場の空気が、少し不安というか、不思議なものになりました。
「何故かをお話ししましょう」
福田さんは空気を感じて説明を始めます。
「それでなくても40人からの子供たちが電車に乗れば、一般の乗客の皆様にはご迷惑です。そして、子どもたちは、おしゃべりに夢中になったりすると、まわりが見えなくなります。たとえ、お年寄りや、体の不自由な方が乗ってきても、気が付かないことが多いと考えます。また、席を譲るように促して、譲ったとしても、その近くに子供たちが座っていて、ざわざわとしていたら、譲ってもらった人も落ち着かないのではないでしょうか。
そして何よりも、そういう人に席を空けておいてあげるべきだということを意識しなくてはいけません。ですから、席を空けておくようにしようと約束したいです」
会場は少し落ち着いてきました。
「3つ目は、お昼のお弁当を子ども自身で作ってきてもらいたいと思います」
会場がざわつきます。
「ただ、お弁当を全部作るとなると、お母さん方も相当お手数をおかけすることになると思います。そこで、お弁当はおにぎりに限るとしたいと思います。全員がおにぎりなら、変に競争をしなくてもいいですし、子どもさんが自分で作ることができるようになるのもそう遠くはないのではないでしょうか?」
「以上の3つをルールにしたいのです。なぜ、このようなルールを作るかということをお話しします」
「私たちは、この奥山村こども自然学校の活動を通して、子供たちに、良い生活習慣を身に着けてほしいと思っています。そのために、家庭でも実践しないといけない約束事をすることで、生活の習慣が少しでも身につくように、お弁当作りをお願いします。
おにぎりを自分ですべて作れるようになったら、ほめてあげてくださいね。
また、階段を上ったり、電車で座らないことで、そのようなことがいいことだと感じてほしいのです」
「きっと座らずにいれば、お年寄りなどに、お礼を言われたりするでしょう。階段を上ることで、私たちは彼らに体力がついてきたことを褒めます。良い習慣を身に着けることは、社会からも評価されるのだということを感じてもらうことで、ほかの良い習慣も自ら実行するようになってほしいのです」