未定稿小説『奥山村物語』55
2020.12.11
いつものように、乾杯をして、みんなが盛り上がっている時、福田さんが立ち上がり、みんなを制して「ちょっと聞いてもらいたいことがあるんだ。」と、神妙な顔で話始めます。
みんな何があるのかと、固唾を飲みました。
「実は…」と、しばらく間があり、「結婚しようと思うんだ。」
一瞬みんなが固まりました。そして、その直後、『え〜〜〜〜』と、言う、歓声とも、どよめきともつかない声が湧き上がったのです。今日は4月1日じゃないよね? 食うや食わずで「結婚するの?」「相手は、相手は?」と、みんなが口々に叫び始めました。
それを両手で制して、福田さんが「相手は、学生の時のキャンプの仲間だ。後輩。それから、彼女は学校の先生をしている。」
谷口君が、すかさず「奥山村に一緒に行けるんですか?」
「いや、今は無理だろう、いずれはそうなるといいと2人で考えている。」
「と、言うことは、結婚しても一緒には暮らさないと言うことですか?」
「まあ、そんなところかな。彼女は東京で、私は奥山村だからね。しかし、東京での仕事もいろいろあるから、そんな時は彼女のうちに転がり込むことになっている。」
「それに、先生なら、収入も安定してますよね、ひもの生活と言うことですね。」と、福野君が茶化します。
「そんなこと言うもんじゃないわよ」と川上さんが睨みます。
「いやいや、当たらずとも遠からずだ。これから、きっと生活は苦しいし、苦労も多いと思う。その苦労を一緒にしてもらった方が、将来幸せになれると思って、結婚を決意したんだ。彼女も同意してくれた。」
「ヒューヒュー」と囃し立てられて、福田さんは照れることしきりりです。
「まあ、と言うわけだ。」しかしみんなは、おさまるはずがありません。
「結婚式はいつですか?」
「うん、キャンプが終わって落ち着いた秋頃を考えている。」
「もちろん私たちもお呼ばれできるんですよね。」
「みんなを呼んだら、いったい何人の結婚式になるんだい。とりあえず君たちは、別途パーティーと言うことで勘弁してもらえないだろうか?」
すると、谷口君が、「じゃあ、そのパーティーは私たちに仕切らせてください。」と、立ち上がりました。
そうだそうだそうしてようと、みんなが拍手で盛り立てます。
その後は、相手の写真を見せろとか、馴れ初めはとか、福田さんはすっかりまな板の鯉の状態で、打ち上げは盛り上がっていきました。
福田さんは結婚の準備と、キャンプの準備で、てんてこまいの毎日を過ごしていました。
そして、あっという間に、畑の教室の当日がやってきました。
スタッフのみんなは、あのTシャツを意気揚々と着込んで、子供たちの前に立ちました。
檸檬色のTシャツが、嫌でも子供たちの目をひきます。
また、保護者も、リーダーがどこにいるのか、よくわかるようで、評判は上々でした。