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未定稿小説『奥山村物語』

未定稿小説『奥山村物語』8

2020.3.8

では、今夜はこれぐらいで休むことにしましょう」

「夜尿症の子どもが何人かいますから、起こして、おトイレに行かせてください。」と最後に谷口君が念押ししました。

この時すでに11時を回っていました。

スタッフが眠りについたのは12時を回ったころでした 。


二日目の朝、いい天気です。

子供たちは、すでにざわざわしています。

今日は、川遊び、子供たちが、楽しみでないはずがありません。天気も最高です。


スタッフは目が覚めた瞬間から、大忙しです。

平野君は、すぐに、朝食の支度にとりかかります。谷口君もお手伝いしています。

川上さんたち、リーダー5人は子供たちと布団を畳んだり、部屋の掃除をしたりと、大騒ぎです。

福田さんは、子どもたちの周りをまわりながら、ほうきの使い方を教えたり、ぞうきんを絞ってあげたりしています。


朝ご飯はお天気がいいので、公民館の前の広場に机を出して、食べます。

机の上に、食パン、レタス、ハム、スライスチーズなどを並べます。

子供たちが、自分でパンを取り、その上に好みのものを乗せていって食べるのです。

マヨネーズや、ケチャップなども並んでいます。

そして飲み物の牛乳やオレンジジュースなども並んでいます。

そして、ポテトチップなども並びました。


さあ、いただきますです。

子供たちは大はしゃぎです。何せ、普段はきちんと座りなさいとか言われる食事時間が、まるでお祭りのように、立ったまま食べていいのです。もちろん、歩き回るのもオッケーなのですから。わいわいがやがやと、いろいろなものを乗せています。

しかし、ひとり、パンとジュースだけを持って公民館の縁側に腰かけて食べてる子がいます。昨夜、話題になった三枝君でした。

福野君が、横に腰かけて何か話しています。福田さんは福野君に任せることにしました。

そして子供たちの列に交じって、自分のサンドイッチをつくはじめました。

レタスやハムを乗せ、最後に、ポテトチップスを手に持つと、ぐしゃりと握って、粉粉に砕き、パンの上に、乗せました。そしてマヨネーズをたっぷりとかけてサンドしました。

それを見ていた子供たちが、不思議な顔をしています。

テル君が興味津々で、「そんな風にしておいしいの?」と、福田さんに聞いてきました。

「俺はおいしいと思うよ。してみたらどうだい?」

「うん、やってみる!」

テル君は、さっそく新しいサンドイッチを作り、最後に豪快に、ポテトチップスをバリバリバリと握りつぶして、のせました。マヨネーズもたっぷりです。

そして、大きな口を開いて、ガブリと…「うん、うま~い」

そうすると、子供たちはみんなポテトチップスを乗せ始めました。

福田さんは、にやにやしながら、それを見ながら、サンドイッチをほおばっています。

平野君が近づいてきて、「先に川に行きます。片づけは伊藤さんと谷口君に頼んでおきましたから。」と、ささやきます。

「うん、よろしくたのむ」と、福田さんは平野君の肩を軽くたたきました。

平野君は軽く手を挙げ微笑むと、借りている軽トラックのほうに向かっていきました 。


子供たちは、ポテトチップを挟むのがすっかりお気に入りになったようで、食パンも、レタスも、食材をほとんど平らげてしまいました。

そして、大きな声で、ごちそうさまを言うと、福田さんが、

「それでは…」と、話し始めました。

子供たちは、川遊びのことだと、福田さんのほうを見つめます。

「今日は川遊びだね。」

みんな大きくうなずきます。

「準備するものは、それぞれのリーダーに聞いてください。それから、水筒に入れる麦茶をここに用意してありますから、自分たちで協力していれましょう。」

「みんなの準備ができたら、出発します。では、かたずけを始めましょう」

子供たちは、早く川遊びに行きたいので、こぞって、朝食の片づけを始めました。

そんな中、福野君が福田さんのところにきて、

「福田さん、三枝君が川遊びに行きたくないっていうんですよ。」

「どうして?」

「さあ…」

「どうしてかな~」

「いろいろ聞いたんですが、はっきり言わないんですよ。」

「朝ごはんも、パンしか食べていなかったようだね。」

「そうなんです、何もつけないでパンだけむしゃむしゃと。いつもそうだからというんですよ。」

「わかりました,ちょっと私が聞いてみましょう」

福田さんは、三枝君を探して歩き始めました。

三枝君は自分の荷物のところに座っていました。

福田さんはピンときました。

「洋君。神保リーダーから聞いたけど、川遊びに行きたくないんだって?」

三枝君は、名前を呼ばれると、ビクンとして、振り返りました。

そして、福田さんが、川の話をすると、小さくうなづきました。

「どうしていきたくないんだい?」

三枝君はうつむいて何も言いません。

「どっかぐあいでもわるいのかな?」

小さく首を横に振ります。

「川がきらい?」

やはり横に振ります。

福田さんはもうひとつ聞きました。

「川遊びに行くのに、何か忘れてきちゃった? 水着とか?」

すると、三枝君は、頭を下げたまま、もっと深くうなだれました。

「忘れたのは、みずぎ?」

「うん、それと、バスタオルとか、水中眼鏡も。あと、川遊び用の靴も。」

「そっか、わかった。本当は、川遊びしたいんだろう?」

「うん」

「じゃあ、忘れたものは何とかしてあげるから、川にはいこう。川につくまでに何としてあげる。」

「ほんと? わかった。」

三枝君は嬉しそうでした。

「それと三枝君。洋君て呼ばれるのはいやかい?」

「そんなことないよ。いつもお父さんやお母さんにもそう呼ばれてるし」

「そっか…。オッケーじゃあとにかくほかのものを準備してね。」

「はい!」

三枝君は見違えるように元気になりました。

福田さんは、節子さんに電話を入れました。寛太君は三枝君と同じ学年ということは、奥山村で仲の良かった武雄君もきっと同じぐらいの背格好だと思ったのです。

「はい、波多野です」

「あ、節子さん、福田です。」

「福田さん、おはよう、子供たちどう? みんな今夜のこととっても楽しみにしてるわよ。」

「ありがとうございます。あの、節子さん、ちょっと急ぎのお願いがあるんですが…」

「な~に。何か問題?」

「問題っていうほどのことじゃないのですが、男の子が一人、水着とか忘れましてね。武雄君ぐらいの子だと思うんですよ。寛太君と同じ学年で背格好も同じぐらいなんです。」

「なるほど、武雄君の水着を借りて届ければいいのね。」

「はい、すみません、それと、川遊びするようなシューズもあると助かるんですが…」

「オッケー任せなさい。河原に直接届ければいいかな?」

「すみませんよろしくお願いします。」


福田さんは福野君に事情を話しました。

「そっか~。それで、ザックをのぞいていたんだな。」

「そうなんだよ。何度も何度もね。向こうに行ったら、節子さんが来ているから、ほかの子たちにわからないように、うまく三枝君に渡してください。」

「わかりました。ありがとうございました。」


みんなが集まってきました。

福田さんは、三枝君に向かって、そっとオッケーサインを出しました。

三枝君はとても嬉しそうでした。


「さあ、みんな集まったかな~?」

各リーダーが自分のグループの子供たちを点呼します。

みんな無事に集まりました。

「よ~し、みんな、これから、川に向かって出発します。忘れ物はありませんか?ちょっと確かめますね。麦茶は持ちましたか?」

「は~い」

三枝君が少し不安そうな顔をしています。

「帽子はかぶっていますか?かぶっていない人は持っていますか?」

「は~い」

「よ~し、出発します。」

みんなで列を作って歩き出します。


川に向かう道すがらでは、やはり何人かの村の人に出会いました。

朝の挨拶が、一言二言、言葉を交わし、それが、おもわぬおしゃべりに発展することもありました。

しかし、急ぎなさいとは、どのスタッフもいいませんでした。

おしゃべりをしているグループを、次のグループは追い越していきます。

そしてその先で、そのグループもまた、村の人とおしゃべりをして、30分程度の道のりが、なんと1時間もかかってしまいました。

福田さんは一番後ろから、微笑みながら、そのおしゃべりを見守りつつ、歩いていました。


河原には節子さんがもう来ていました。

そして、すでに、平野君に三枝君の水着は手渡されたようです。

平野君が、福田さんに小さくうなずきました。

どうやら、三枝君にすでに水着はわたっているようでした。

三枝君も、みんなと一緒に着替え始めています。

福田さんは、節子さんに歩み寄り、「ありがとうございました。助かりました。」

「お安い御用よ。それより…」

「なんですか?」

福田さんは、ちょっと不安になりました。村の中で何か、苦情が出たかなと思いました。結構騒がしく歩いているからな。

「あのね、村中で大評判よ。貰い風呂する予定じゃないおうちの人からね、うちにも、ふろに入りにくる子はいないかなって、問い合わせがきちゃってるの。」

「それはありがたいですね…しかし、もう決めてしまっていますし、またこの次のキャンプでお願いしますということで、お話してもらえますか?」

「わかったわ、任せて。」

節子さんはにこやかに福田さんの肩をたたきました。


子ども達を率いて谷口君とリーダーたちが川に入っていきます。

皆ライフジャケットを着ています。

プールで使うゴーグルをしている子もいます。

上流には伊藤さんが大きな黒いタイヤのチューブを積み上げています。


福田さんはわてて、下流に貼ってあるロープの方に向かいました。

彼は流れてくる子供たちの最後の関所の役なのです。

すなわち、そこよりも下流に入ってはいけない場所で、子どもを岸にあげる係です。


下流から見ていると、子ども達は何度も何度も、上流から、タイヤチューブに乗って流れたり、チューブの順番が待ちきれない子はライフジャケットの浮力で流れてきたりしています。

何もしなくても子供たちは楽しんでいます。

中には、川のはじに行って小さなさなかを追ったりしています。

ほかの子供は、少し上流の堰堤から滝のような流れのところで、その下に入ってキャーキャーと騒いでします。


しばらくすると、谷口君が笛をピリリリリ~と吹きならします。

「休憩だよ。みんな川から上がってリーダーのところに集まるように。」

リーダーたちは子供たちを集め、全員いるか確認し、谷口君にサインを送ります。


そしてリーダーたちはお菓子を配ります。

子ども達は三々五々お茶を飲みながらお菓子を食べます。


三枝君は大きな岩の上に座っていました。

すると横に寛太君が来て、「ここにねこうやってお腹を当てて寝ると気持ちいいんだよ。」

と、三枝君を促しました。

三枝君は微笑んで、自分も、岩の上に腹ばいになりました。

「ね、気持ちいいだろう?」

「うん、寛太君いいこと知ってるね。」

「ここ、去年も来たんだ。お母さんの田舎なんだよ。」

「そうなんだ、いいな~こんなところが田舎なんて。」

「洋君は」

「田舎なんか行ったことない…」

「どうして…」

「うちは田舎に行くなんてどころじゃないのさ。お父さんはいつも酔っぱらってて、お母さんといつもけんかしてるし。気を付けないと、僕も殴られたりするんだ。」

「えっ…そうなんだ。」

寛太君は絶句してしまいました。

そんなおうちは想像すらできませんでした。

「きにしないで。別に何でもないから。それに、おばあちゃんは優しいんだよ。このキャンプもおばあちゃんが来させてくれたんだよ。」

「そうなんだ~。よかったね」

「うん」

三枝君も楽しそうな声で答えました。

福田君は少し離れたところで石に寄り掛かって昼寝をするふりをして、この話を聞いていました。


谷口君の笛が鳴りました。

再び、みんなで川に入っていきます。


川の中では歓声が響き渡ります。

そんなひと時を過ごしていると、川岸に一台の軽トラックが止まりました。

あの説明会の時に、野菜を売るなんてしない、ただでもってきてやるといったおじいさんです。