未定稿小説『奥山村物語』56
2020.12.18
鈴木さんが集合場所に来ていて、Tシャツの販売チラシを親御さんに配っています。なんと、今日、申し込むと、キャンプ中に子供に届いて、帰ってくるときにはそのTシャツを着て帰ってこられると言う仕組みになっていました。親御さんが子供たちに聞けば、欲しいと言うに決まっています。そして、皆さんこぞって申し込むということになりました。
平野君と福田さんが、「鈴木さんは商売うまいね〜」と、囁き合いました。
ただ商売が上手いだけでなく、相手の気持ちがわかっていると言うか、痒い所に手が届くんだよな。「採寸はここではできないから、キャンプ中にこどもたちに合わせにきてくれるんだそうだよ。」
「へ〜確かに、ありがたい」
「でも、買わなかった子どもがちょっと可哀想かな」
「そうだね・・・その辺はこれから考えないといけないかもしれないね」
予定通り、40人の子供たちは、バスに乗って一路奥山村に向かったのでした。
奥山村では、今までと違って、先発のスタッフが、子供たちを待ち構えています。
バスが、学校の駐車場に着くと、そこには、段ボールで手作りした「ようこそ奥山村こども自然学校・畑の教室に」と言う横断幕が広げられていました。
もちろん、陽子さんや省三さんをはじめとして村の方々の姿も見えます。子供たちの中でも、あかりちゃんは、人一倍大きく手を振っています。堤光さんも嬉しそうにそれに答えているようでした。
学校のグラウンドでバスを降りると、子供たちは、口々に、歓声や、感嘆の声をあげています。
特に昨年来たこどもたちは、公民館のイメージがあるからか、学校の姿に、驚いているようでした。一気に立派になったのですから。
そして、多くの子供達が、いてもたってもたまらないと言う感じで、グランドを駆け回り始めました。
谷口君が。大きな声で「さあ、さあ、一度集まろう」と、言いました。
子供たちは渋々、学校の正面玄関の前に集まってきます。
「さあ、まず、バスから、自分の荷物をおろします。そして、もう一度ここに集まってください。」
バスの運転手さんがニコニコと、ボディーのハッチを開けて、子供たちに荷物を手渡して行きます。
おろし終わって、運転手さんは、福田さんに歩み寄ると、「いいですね〜。私も田舎育ちだから、こう言う風景見るとほっとするし、子供たちが、ああやって、駆け出して行く姿はとっても微笑ましいよ。子供はああでなくっちゃね。」
「そうですね。長旅ありがとうございました。」
そう言うと福田さんは、サブザックの中からコーヒー缶を出すと、運転手さんに差し出しました。
「お帰りも、気をつけて。」と微笑みました。