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未定稿小説『奥山村物語』

未定稿小説『奥山村物語』9

2020.3.8

川の中では歓声が響き渡ります。

そんなひと時を過ごしていると、川岸に一台の軽トラックが止まりました。

あの説明会の時に、野菜を売るなんてしない、ただでもってきてやるといったおじいさんです。

福田さんに向かって、ちょっと照れながら手を振ります。

福田さんは野口君に声をかけ、持ち場を変わってもらいおじいさんのところにかけていきます。

おじいさんは、荷台に手をついて、「ほれ、これ、子どもたちに食わせてやれ。」

と言います。そのには見事なスイカが10個ばかり載っていました。

「え、いただいてよろしいんですか?」

「いったじゃろう、子どものためだ、商売しようなんて思っね~ずら」

「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて…」


その後子どもたりを呼び集めて、自分たちのグループごとにひとつづつ運ばせます。

子どもたちはお爺さんに口々に「ありがとうございます」「いただきます」と、お礼を言います。

お爺さんは、満面の笑顔で、子どもたりの頭をなでたり、スイカを渡したりしてくれています。

福田さんは横で、これでいいんだ。こんな村の人との関係が大切なんだ。

お爺さんの荷台には、包丁や、まな板代わりの板まで乗っていました。

それをお借りして、子ども達にスイカを切り分けるのを見ながら福田さんはお爺さんに、「子供たちと一緒にスイカ召し上げっていかれませんか?」

「いやいや、わしは食い飽きてるから。」

「いえいえ、それでも、子どもたちが、お爺さんと一緒に食べれたら、きっと嬉しいと思うんですよ。お願いします。」

「そうか…じゃあ、そうするか?」

福田さんは川上さんを呼び寄せて、お爺さんと一緒に食べるようお願いしました。


お爺さんは、子ども達と一緒にスイカを食べながら、スカイがどうやって育つか、どんな苦労があるか、甘いスイカの見分け方など、色々話してくれました。

子ども達は興味津々で、スカイをくわええたままおじいさんの話に聞き入っていました。


川上さんが福田さんに向かって、ウインクをしてよこしました。

福田さんは軽く手を挙げて、微笑みました。


そんな時、福野君が福田さんに歩み寄ってきました。

「福田さん、三枝君のことわかりましたよ。」

「うん?」

「さっきの休憩の時、福田君と寛太君が話しているのを聞いたんです

と、三枝君の家庭の状況を話しました。

「きっと、殴られるときに洋と呼ばれて殴られるんでしょうね。だから、洋と呼ばれると…」

「なるほど…しばらくは三枝君と呼びましょう」

「わかりました」


子ども達は、スイカを食べ終わるころ、福田さんは子供たちに声をかけ、お爺さんにお礼を言ってお見送りしました。

「ありがとうございました。今日は本当にごちそうさまでした、子ども達も大喜びでした。」

「困ったことがあったら何でも言ってくるといいぞ。」

お爺さんは、楽しげに軽トラに乗り込んで帰っていきました。

その後子供達の興味は再び、川に向いていきます。


おじいさんの軽トラが出て行ったのと入れ違いに、お弁当屋さんのワゴンが入って来ました。

お弁当が搬入されて来たのです。

福田さんが受け取っていると、写真を撮っていた伊藤さんが気づいて手伝ってくれました。

テントの下に運び込むと、川の中から、谷口くんが手で大きく丸を作って、頭を下げます。ありがとうと言っているのでしょう。そして、お弁当がきたことも承知したということなんだろうと、福田さんは思いました。


子ども達は谷口君の号令のもと、川に入っていきます。

子ども達を川で遊ばせながら、平野君を筆頭に数人のスタッフが、夜のうどんをこねる準備を始めます。


お昼のお弁当を食べた後、谷口君は子供たちに声をかけて、うどんをこねはじめました。これは、夕食に食べるうどんを今のうちにこねて、寝かせておくのです。

食後の休憩を兼ねているので、中には、大きな石に寄り掛かって、うつらうつらしている子もいます。そんな子供は、そのままに休ませながら、元気な子供たちと、うどんをこねます。水着のまま裸でこねているので、粉だらけになっても何も気になりません。

粉の量と水の量などは、事前に計っておいたので、一生懸命にこねればうまくいきます。ある程度こね終わったなら、それを丈夫なビニール袋に入れて、踏みます。

元気な子どもたちは、「えっさ、ほいさ、えっさほいさ」と掛け声をかけ、踏みつけていきます。自然と10回交代ということになり今度は、数を数えます。1、2、3、4…と、10回を数えたら、交代です。それを繰り返します。

人数がいるので、いくつものビニール袋を、いっぺんに踏むことができ、あっという間にうどんが打ちあがりました。

そのあと、再び川で遊び、休憩し、を何度か繰り返して、川遊びもいよいよ終わりです。

皆着替えをして、帰途につく準備をしているとき、三枝君が福田さんのところにやってきました。

「あの…」

「なんだい?」

「この水着どうしたらいいですか?」

「おお、そうだったね。あずかろう、返しておくよ。」

三枝君が首を小さく振ります。「どうした?」と福田さんがとうと、

「公民館に持って帰って、洗濯してから返したい」

「そうか、そうだな。」

福田さんは微笑んで三枝君の頭をなでようと、手をのばすと、三枝君は、ぎょっとした様子で身を固くしました。しかし、頭を優しくなでると、三枝君はほっとしたように微笑みました。

福田さんはその変化を見逃してはいませんでした。

(なるほどな…)と心の中でうなづいていました。


さて、再び、歩いて、公民館まで帰ります。

来るときは下りだったのですが、帰りはその逆に帰るので、上り坂になります。

川遊びで、だるくなった体を、子どもたちは引きづるように坂を上ります。息の時のような元気はありません。

のろのろと行列を作って登っていきます。スタッフたちは子供たちを一生懸命励まします。


公民館についた時には、もう子供たちからは、声も出ませんでした。

水着を洗って干すように谷口君が指示をしました。子ども達は、嫌がっているわけではないのですが、のろのろとして、一向にはかどりません。

小さな女の子などは、部屋で荷物に寄り掛かったままうつらうつらしている子もいます。


この様子を見て、福田さんは、(しくじったな~)と、思っていました。

(川で少しあそばせすぎたな。もう子供たちにうどんを切ったり、ゆでたりするエネルギーは残っていない)

そう、考え、福田さんは、まず平野君と谷口君を呼びました。

「この様子だと、子どもたちは晩ご飯のうどんを作るのは難しいと思うんだ。」

「そうですね」と平野君。

「でも、元気な子もいますよ」と、谷口君。

「もちろん、しかし、元気な小物、注意散漫になっていると思うんだ。そんな中、火をたかせたりしたら、けがをする子が出てしまうかもしれない。そこで相談なんだが…」


平野君と、谷口君がうなずいて、福田さんを見つめます。

「ちょっとした非常事態と考えています。そこで、子どもたちは休ませて、スタッフで夕食を作ってしまおうと思います。」

「そうですね、それがいいかと思います」と平野君

「そこで、谷口君、それに、今野さんと福野君とで子供たちを部屋の中で、遊ばせてくれますか?  急なお願いで申し訳ないのですが、何かゲームでもして、くれると嬉しいです。あまり、体を動かすものではなくて、手遊びのようなものができたらいいのですが。」

「わかりました、任せてください。」と、谷口君がうなづきます。

「そして、平野君と野口君、田中さん、川上さん、神保君は、うどん作りにかかってもらいたいと思います。いかがでしょう。」


「わかりました」と平野君。

谷口君はすぐに今野さんと福野君に子供たちを大広間に集めるように言うと、自分はスタッフの寝室に駆け込みました。

子どもたちが集まったところに谷口君はノートを一冊持って、戻ってきました。

「さあ!みんな集まれ~!」

これからクイズ大会をします。

マリちゃん(今野さんのあだ名)は、こっちの部屋の真ん中に立ってください。

てっちゃん(福野君のあだ名)は、反対の部屋に立ってください。

マリちゃんは、丸です。てっちゃんはバツです。これからのクイズはマルバツクイズです。マルだと思う人は、マリちゃんの方へ。バツだと思う人はてちゃんの方へ移動してください。

じゃあ練習しますね。

マリちゃんとてっちゃんはスタンバイしてください。

ふたりはいち早く意図を理解して、谷口君に目配せすると、それぞれの部屋の真ん中で、大きくマルとバツを作りました。

「では、問題です。今日の晩御飯はうどんである。マルかバツか」

子どもたちが、わ~っと声を上げて、マルを出すマリちゃんの方に駆け寄ります。

「それでは正解!今夜の晩御飯は、うどんです!正解はマル~」

子どもたちはおお盛り上がりです。

さて、それからマルバツクイズが始まりました。

谷口君は、もしも雨が降って予定の活動ができなかったときのために、このクイズ問題を用意していたのでした。

それも、ただのクイズではなくて、このキャンプに関係することばかりでした。

「福田さんの年は、50歳である。マルかバツか」

「この公民館は昭和32年に建設された。マルかバツか」

「みんなが泊っているこの部屋は、両方合わせて40畳である。マルかバツか」

「私、谷口は、結婚している。マルかバツか」

子どもたちは、大きな声で、バツ~と叫びながら、移動します。

こんな問題を出しながら、ときおり、

「この公民館の標高は800メートルである。マルかバツか」

といった問題や、

「北はこっちの方角である。マルかバツか」と、ある方向を指さします。

そのたびに、この地域のことや、周囲の山の名前を、織り交ぜて話をしてあげていました。

子どもたちは興味深げに、そのたびに話を聞いています。

そして、話が終わると、谷口君は間をおかず、「次のもんだ~い」と畳みかけます。


そんな風に子どもたちは、谷口君の準備のおかげで、大いに盛り上がっているさなか、他のスタッフたちは大車輪でうどんを伸ばし、切り、汁を作ります。汁はおかずにもなるけんちん汁です。

その野菜も、大特急で刻んでいきます。なんとその野菜を刻んでいるのは福田さんでした。

川上さんはその横で、「福田さんうまいですね」

「な~に、学生の時はこうやって子供たちのキャンプで、食事の準備をずいぶんしたものですよ」

「そうだったんですか」

神保君と野口君は庭で、かまどの火をおこし、ガンガンと湯を沸かしています。

「みんなも、結構手順がいいじゃないか。」

「平野さんと谷口君とが、トレーニングで、3回ほど、野外料理の研修もしました。結構仕込まれていたんですよ。」

「そうだったんだ。3回も」

皆、トレーニングして、手に入れた技術が役に立つと張り切っているようでした。

福田さんは、やはりスタッフのトレーニングは、重要だと思っていました。

と同時に、今回は、平野君と谷口君のおかげで、技術面はある程度トレーニングされているんだなと感じてもいました。


そんなことを考えているうちにあれよあれよと、食事は出来上がり、子どもたちの部屋に運び込まれました。

子どもたちは、マルバツクイズを中断して、机を出したり食器を出したりと、手伝ってくれます。

谷口君が「みんなが食事の準備を手伝うと、うどんが早く食べられる。マルかバツか」というと、子どもたちはいっせいに「マル~」とさけび、谷口君が、「では、マルバツクイズは終わりにして食事の準備にかかりま~す。」というと子供たちは、一丸となって、準備にかかったのでした。


なんと予定よりも30分も早く食事の時間を迎えることができました。


皆、舌鼓を打っています。

準備をしたスタッフたちも満足げです。

「うまいだろう!俺がうどんを茹でたんだぞと、自慢げです。」

福田さんは、そんな中、子どもたちを見て回りながら、谷口君に近づくと、

「見事だったね、あのクイズ大会。いつ準備したんだい?」

「いや、こんなこともあろうかと、暇を見つけて、書き溜めたんです。」

「私の年までクイズになるというは、まいったがね。」

「ああ、失礼しました」

ふたりは笑いました。


とはいえ、福田さんは気を抜く暇がありません。

子ども達がもらい湯をしに行く時間がせまっています。

各グループごとに、お願いしてあるお宅に、子どもを預け、「もらい湯」をします。

そして、ある程度の時間がたったならば、リーダーがまた迎えに行くのです。

それまで、各お宅で過ごさせてもらうのです。


谷口くんからその説明を受けると、食事の片づけと、お風呂の準備へと、立ち上がりました。