未定稿小説『奥山村物語』24
2020.4.18
三枝君の自転車旅行
そして、勉君が、「何がいい?」と、買い物カゴを見せます。
三枝君は、びっくりして、「今回の三日分の栄養ドリンクより多いですね。」と笑いました。
「確かに」と谷口君も笑います。
「まあ、みんなでご馳走になろうじゃないか」
「はい」と、三枝君が力強く答えます。
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みんなで車座に座り込んで、栄養ドリンクやバナナを食べていると、三枝君がすくっと立ち上がり、「では、出発します」 と言いました。
その姿を見て、福田さんはますます、彼の成長を実感しました。
一回り大きく見えたのです。
みんなも立ち上がりました。
「じゃあ、もう一息、谷口君、よろしく頼むね」
「いいえ、もう、彼は大丈夫ですよ」
谷口君が太鼓判を押します。
「いいや違う、もう一息というところから先が危ないんだ。気を抜かずに伴走してください」
「あ…はい、わかりました。すみません」
谷口君の顔が引き締まります。
「おい、わしもお前の車に乗せてくれや」と、省三さんは谷口君の車に乗り込みます。
三枝君は勢いよく出発していきます。
谷口君の車も、あとをゆるゆると出発していきました。
助手席には、省三さんがしっかり座っています。
「さあ、彼は今夜には到着するでしょう。私たちは村に帰りましょう」
勉君が福田さんを促します。
「そうですね」
省三さんの家に勉君の車が到着すると、節子さんや村の人が何人か集まっていました。
「どうだった?」
節子さんが、勉君に聞きます。
「元気だったよ」
「きっとあと2時間ほどで着くでしょう」
「ちょうど晩御飯の頃合いね。予定通りだわ。皆で歓迎の夕食会にしましょうね」節子さんは腕まくりをします。
「福田さんもご一緒でいいですよね」
と、省三さんの奥さんが微笑みます。
「もちろんです。しかし彼は元気そうでも、東京から自転車で来ています。疲れもあるでしょうから、早めに切り上げてあげてくださいね。それにまず風呂に入れた方がいいと思います。結構汗臭かったですから」
「そうですね。私、お風呂入れてきます」
「もう準備してあるわよ」と節子さんが笑います。
「まずお風呂に入ってもらって、それからみんなでご飯を食べましょう」
「何もかも準備万端ですね」福田さんは笑顔で皆さんに頭を下げます。
「なに言っているの、これから、うちの子になるんですもの、当たり前のことですよ。」省三さんの奥さんが微笑みます。
福田さんは、ドキッとしました。
そうだ、これからはこのうちの子になるんだ。
何か、福田さんは急に大きな責任の重さが肩にのしかかってきたような気がしました。
気を紛らわすように、車から荷物を下ろしたり、料理の準備を手伝ったり、一生懸命に働きました。
すると、省三さんの奥さんが近づいてきて 、
「心配するこたあない。この村の連中はみんないいやつだし、うちの旦那は腹くくとるから。自分の人生最後の大仕事だと言っていたよ。必ずうまくやってくれるから大丈夫」
その笑顔は自信に満ちていました。
そして最後に、「だてに50年以上一緒におらんよ。それに3人も子ども育ててきたしな」
「ありがとうございます」
福田さんは深々と頭を下げました。