未定稿小説『奥山村物語』25
2020.4.25
「心配するこたあない。この村の連中はみんないいやつだし、うちの旦那は腹くくとるから。自分の人生最後の大仕事だと言っていたよ。必ずうまくやってくれるから大丈夫」
その笑顔は自信に満ちていました。
そして最後に「だてに50年以上一緒におらんよ。それに3人も子ども育ててきたしな」
「ありがとうございます」
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福田さんは深々と頭を下げました。
三枝君の自転車が村の入り口に差し掛かったと、勉君の軽トラが飛び込んできました。
みんな手をふきながら、玄関前に出てきます。道路に出て手をかざしてみる人もいます。
…三枝君が乗った自転車の姿が見えました。みんなの歓声が上がります。
「きた~!!!!」
みんなが叫びます。
どんどん三枝君の姿が大きくなってきます。
道路から、玄関に自転車がゆっくりと入ってきて、止まりました。
そこをみんなが取り囲みます。三枝君は一人一人に頭を下げるようにぺこぺこしています。
そして、その人の輪をかき分けるように省三さんの奥さんのところに歩み寄ると、きちんと頭を下げて、「よろしくお願いします」といいました。
「おかえり、洋。よ~頑張ったね。これからは、頑張らんでもいいからね。のびのび暮らしていこうね」
「はい、ありがとうございます」
三枝君の目からみるみる涙があふれてきました。
みんなは、かたずをのんで見守りました。しんとしています。
三枝君はごしごしと涙をぬぐっています。
谷口君の車がいつの間にか後ろに止まっています。
省三さんが福田さんの後ろに立っていました。
「あとは、わしと、あれに任せろ。大丈夫だ」
「さあさあ、風呂にしてくりょ~。洋が汗臭くてしょ~がないんじゃ。飯の前にこいつを風呂に入れるぞ。」
「そうね、まずお風呂に入ってきなさい。な~に谷口君も結構臭いじゃない。一緒に入ってきなさい。」
節子さんが朗らかに声を上げました。
一気にみんなが、明るく声を上げます。
そこからは、いつもの村の宴会状態です。
風呂に向かう谷口君に、福田さんが、「お疲れ様でした、ありがとう」と、言いました。
「いえ、楽しかったですよ」
と、谷口君は、片目をつぶって微笑みました。
奥さん方の準備がどんどん進みます。
三枝君と谷口君が風呂から出てきたときには、すっかり準備も整っています。
いつもと違うのは、省三さんの大広間に、お母さんたちもみんな揃って座って待ち構えています。いつもは準備や片付けで、台所にいるお母さんたちもみんな座っています。
お風呂から出てきた三枝君を、満場の皆さんが拍手で迎えます。
三枝君は広間の入り口で、また大きく頭を下げて、
「これから皆さんよろしくお願いします」と、言いました。
拍手が一段と大きくなります。
「さあ、おすわり」
省三さんの奥さんが促します。
三枝君が座ると、「さ、乾杯じゃあ。ありゃ、ビールがないぞ」と、省三さんがつぶやきます。
「そりゃあそうですよ、今日は洋君の歓迎会ですからね、アルコールはありませんよ。」
「そうか…」
と、なにか手持無沙汰の様子ですが、微笑んでいます。
そして、「おい洋、早く飲めるようになれよ」といつものようにバンバンと背中をたたいています。
みんな笑いながらそれを見ています。
福田さんが、「では皆さん、三枝君のこの村への移住を祝って乾杯をしたいと思います。その前に、三枝君、ひとこと挨拶をしますか?」
「はい…」