日本を、支える人材、けん引する人材、を育てる

Ⅴ 研究提言

「理論×実践」、より良い社会を目指すために必要であるキーワードであると認識しながらも、未だその融合がなされていないように感じています。「社会に役立つ研究」を問い続けながら、「理論×実践」の融合を体現できるよう進めていきます。

事業者と研究者の融合ために

2024.1.31

明けましておめでとうございます。2024年もどうぞよろしくお願い致します。
能登半島地震に被災された皆様には一刻も早い復興を心より祈っております。

 それでは、現在実施している「SPS研究」の進捗を共有したいと思います。現在、2023年度夏季調査のデータより論文化に向けて動いています。ひとり親家庭の子どもや保護者へのキャンプの効果や意義をエビデンスベースで発信していくためには論文化しパブリッシュしていくことが必須とも言えます。そのためにも引き続き論文化に向けて進めていきたいと思います。一方で、パブリッシュされたあとの動きも明確化していく必要があります。研究内容やテーマ、質によって多少異なるものの、一般的に一つの研究でわかることは微々たるもので、その研究一つで社会が劇的に変化するというものはありません。少しドライな言い方に聞こえるかもしれませんが、今回の研究においても、「SPS事業」を「自尊感情」というものさしを使って評価し、見える化したに過ぎないため、何か「大発見」をしたということではありません。これが学術誌やHP等で公開されたとしても、SPS事業に対して大きな追い風とはならないでしょう。つまりこのエビデンスを「どう使うのか」を計画していることがとても重要になります。

 これは、野外教育業界にある(他業界でも同様かと思いますが)、「実践と理論の融合」という課題の解決に向けた大きなポイントであると思っています。学会などでもしばしば「実践と理論の融合」はテーマになり、今回の研究同様に、民間団体が行うキャンプ活動を量的または質的に分析し、アウトプットしているものはときおり見かけます。研究者には業績の1本として、民間団体に対しては活動の効果をエビデンスベースで証明できそれはそれで「価値」、「意義」は生まれています。しかしながら、その後「業界」に対してその影響を及ぼすには至っていません。それは結局のところ本質的な融合にはなりえていないと思うのです。

 研究者は研究のための研究にならないように社会的な還元を見据え、現場の課題やニーズに対して敏感にアンテナを立てていなければならないでしょう。一方で、民間団体の方は何に困っているのか、それが解決されるとどのように発展的に動けるのかを明確にし、ただ「研究してほしい」に陥らないようにしなければなりません。研究規模の大小はあれど、互いに「社会(または業界)のために」を見据えて動いていく必要があるように思います。そのためにも、研究者は事業者の、事業者は研究者の血を「混ぜる」必要があるのではないかと思うのです。「事業者は事業者で、研究者は研究者で」という事ではなく、研究者も事業者の、事業者も研究者の実情や悩みを知る必要があり、そうすることで互いを尊重しあった有機的な繋がりが生まれるのではないでしょうか。当たり前のことを言っているようですが、意外と無意識のうちにそのような状況が出来上がっているように思います。たとえば研究者は、調査対象が学内活動ばかりになっていませんか、調査を事業者に丸投げになっていませんか。事業者は、調査をして終わりになっていませんか、論文の確認は研究者に丸投げになっていないですか。それぞれの役割や業務がある中で、酷なことを言っているのかもしれないですが、本質的な融合のためには、互いを知り、寄り添う必要があるのではないでしょうか。

「基本的、でも大切なこと」をこれからも忘れずプロジェクトを進めていきたいと思います!