2022連携PJ経過②「調査開始!」
2022.8.1
研究提言PJ8月のブログです。気づけば8月になり、大学では野外実習、民間の皆様も繁忙期を迎え、忙しく日々を過ごしている事と思います。やりがいのある日々、頑張っていきましょう!
さて、7月号ではSPS研究が始動したことをお伝えしましたが、実は7月末より調査も開始されました。そこで、今回はSPS研究の概要を紹介したいと思います。
まず、5月号でも載せましたが、2021年度から始まったSPS事業について見つめると、
① 参加者に対する支援
② 運営実施者に対する支援
③ 持続可能な事業とするための支援
の3つの課題を挙げられました。
今回の研究では、それらの課題に対してアプローチし、課題を解決することによって、発展させていくこと、つまり、「SPS事業の持続可能な運営、社会的普及」を大きな目的として行っていきたいと思います。
そのような中で、どのような研究が必要なのかを複数回に渡ってミーティングを行い、現状をまとめてみました。
平成30年の「国民生活基礎調査」では、子どもがいる現役世帯のうち、ふたり親世帯の貧困率が11.2%であるのに対して、ひとり親世帯の貧困率は48.3%と高い割合を示しています。佐藤ら1)は、貧困家庭の子どもは電車への乗車や、バーベキューのような野外活動も経験していない場合が多い事から、そのような社会的な経験の乏しさが子どもの自己肯定感を低めており、自己肯定感を土台とした学習支援の必要性を指摘しています。また、大藪ら2)は、ひとり親世帯にとって体験活動は支援と子どもを結び付け、地域で子どもを支える体制を作る意義があると述べていますが、一方で参加費用や送迎などの負担から体験活動を諦めざるを得ない状況がある事を指摘しています。
一方で、2021年度に実施されたSPS事業は、延べ87名の児童や保護者が参加し、参加者および保護者の感想からは高い満足度と継続的な実施が望まれています。継続的かつ発展的な運営には、公的機関や民間企業などと連携し取り組んでいくことが考えられますが、そのためには当該事業を始めとする、ひとり親家庭に対する自然体験活動の有用性をエビデンスベースで証明する必要があると考えます。しかし現在そのような研究は見当たらず、事業担当者の実感や参加者の感想による実感に留まっています。
自然体験活動は自己肯定感や生きる力などの心理的側面や社会的スキルの育成に効果があることが明らかになっており、貧困家庭の子どもにとって不足しがちな体験活動を補うことや、自己肯定感や社会的スキルの醸成に非常に有効であることが考えられます。さらに保護者にとっては、貴重なレスパイトの機会になることが考えられ、子ども、保護者の両者にポジティブな影響があるものと考えられます。ひとり親家庭に対する自然体験活動の影響を明らかにすることは、現在実施している「ひとり親家庭支援事業」のような事業の有用性を示すだけではなく、SDGsの目標1「地球上のあらゆる形の貧困をなくそう」、目標4「誰もが公平に、良い教育を受けられるように、また一生に渡って学習できる機会を広めよう」といった目標にもアプローチする事にもつながり、世界的な課題に対しても有益なエビデンスとなりえます。
改めて、現状を把握すると、SPS事業に参加する事による参加者や保護者に対する効果を明らかにすることは、SPS事業の発展、社会的な課題の解決に役立つものとして、意義あるものになりそうです。
そこで、「ひとり親家庭を対象とした自然体験活動の効果を参加者および保護者の両面から明らかにすることを目的とする。また、事業運営者や参加家庭・不参加家庭の保護者へ支援事業に関する実態・ニーズ調査を行い、参加する障壁となる課題を明らかにするとともに、その解決策を検討する。」ことに取り組む事にしました。
そのような背景から、早速今年度のパイロット調査に向け、研究計画を立案し、湘南自然学校の協力を得て、調査を実施するに至りました。しかしながら今回は、参加者への調査が十分に得られないことから、保護者に対しての調査のみ実施しています。
研究倫理の都合上、調査の詳細を記載するわけにはいかないのですが、必ず今回のパイロット調査の結果についてもどこかで公表したいと思います。
今後の調査経過をどうぞご期待ください!
参考文献
1) 佐藤・小形(2019):貧困世帯の子どもへの学習支援とその課題-支援団体へのインタビュー調査からの考察-,研究紀要青葉Seiyo,10(2),117-129.
2) 大藪・木原(2021):ひとり親世帯における体験活動の意義と影響,岐阜大学教育学部研究報告,45,91-100.