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Ⅴ 研究提言

「理論×実践」、より良い社会を目指すために必要であるキーワードであると認識しながらも、未だその融合がなされていないように感じています。「社会に役立つ研究」を問い続けながら、「理論×実践」の融合を体現できるよう進めていきます。

研究の一歩目

2021.5.25


 研究提言プロジェクト第2回のブログになります。第1回では「社会に役立つ研究とは」というテーマで「実践と研究の融合」を意識して取り組んでいることをお伝えしました。今回は「研究の一歩目」という話をしたいと思います。


  研究とは、減少や事象の理解・説明、さらにそれを使った予測や制御を目的として、調べたり考えたりする活動です1)。それは新しいことやより正しいことを目指したもので、「説明が無かったものに説明を」、「あいまいな知識をより正しいものに」、「問題解決に知見を応用」というような方向性を持っています。その方向性のもとに「調べたり」「考えたり」するわけですが、ざっくり言うと、研究は、先行する書籍や論文、観察や調査などを材料に、論理的な思考を通して結論を導く、新しいものを作り出すことと捉えることができます。

 私が自身のゼミ生に、卒業研究に取り組む時には本人のモチベーションや経験から、研究の種を探しなさいという話をします。いわゆる自身が研究するテーマを見つける作業です。この際、併せて必ず伝えるのは、「研究のレビュー」を行うことです。レビューとは、これまで行われている研究結果を見直すことで、私たちが考えうる研究テーマやテーマに附随する問題というのは、往々にしてすでに先人たちが同様に考え研究が積み上げられてきています。そのため、このレビューする作業を怠るとそもそも明らかになっていることを再度時間と労力をかけて同じ結果を生み出すことになります。一方で、レビューの作業を実施することで、問題を定義することや問題の位置づけを行うこと、問題解決に必要な方法、明らかになっていること、明らかになっていないことなどを把握することができ、「自分の立ち位置」を知ることができます。これは言わば登山時に行う「現在地の同定」の作業ですね。現在地がわからないまま登山を続けると、目的地に着かないことや道迷い・遭難を起こしてしまう危険性がありますよね。まさしく研究においても現在地の同定が非常に重要になります。

 たとえば、野外教育学会が発行している野外教育学研究法2)によれば、日本野外教育学会所有のデータベースに収録されている論文を基に、野外教育研究の動向をまとめ、今後の課題について考察しています。課題に入る前に少し余談ですが、近年20年でどのような研究がなされているかというと、最も多い領域は「参加者の心理効果」で全体の41.6%、次いで「指導者・指導法」12.8%、「実践報告」12.3%、といった状況で、野外教育においてどのような指導をすればどのような効果が得られるのか、という実践者の興味・関心を反映するものと説明されています。

 

 さて、本題でこれからの野外教育研究の課題として、以下の4点があげられています。

      野外教育を社会に認知してもらうために、野外教育の概念や対象領域に関する研究が必要である。

      研究主体が体育分野に偏っているため、複合領域としての特性に基づき関連分野と連携した研究が必要である。

      自然学校に代表される社会教育における野外教育の実践は様々な広がりを見せており、ここでの研究課題を整理するとともに、実践と結合した研究の推進が必要である

      生涯学習社会、高齢化社会における野外教育のあり方についても研究していく必要がある。

 

なんだか、この研究提言プロジェクトで取り組んでいる内容に近いことが課題として挙げられていませんか。「実践と結合した研究の推進」なんていうのはまさしくこのプロジェクトが目指す所ですよね。こういった点からもこのプロジェクトを推進していく重要性を再認識できることは、何だか嬉しいですよね。

 

さて、といっても動かなければ何の意味もないので、最後にこのプロジェクトの今後の動きについて話をします。先にも述べたように研究の一歩目として「現在地の同定」を行うことが必要です。「各プロジェクト推進に向けたエビデンスとなるデータ収集や効果、意義を検証する」、というのがこのプロジェクトの存在意義ですが、そのためには各プロジェクトに関連する情報をレビューし、現状と課題を把握する必要があります。各プロジェクトとコミュニケーションを取りながら、連携の可能性を模索しつつ、研究の種を見つけていきたいと思います。

 

参考・引用文献

1)心理学・社会科学研究のための調査系論文の読み方,東京図書株式会社

2)野外教育学研究法,日本野外教育学会