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コラム『雑記帳』

1983年国際自然大学校設立当初より発刊していた機関誌『OUTFITTER』に寄稿していたコラムです。
現在、機関誌『OUTFITTER』は、廃刊となりましたので、WEBにて、コラムを書き続けています。
現在は月1回、1日に更新しています。

第389号 モデルプログラムを探すのではなく新しいプログラムを作ろう

2023.9.1


新聞に『コロナが5類引き下げになっても中小企業の倒産が止まらない』という記事がありました。
止まらないどころか、増えているというのです。
コロナ禍で、政府は無利子無担保の融資制度を作り、中小企業を支援しました。
その額は、43兆円に上るそうです。
その返済が、始まったのです。
借金の返済が始まる。
仕事や客足は戻らない。
それに追い打ちをかけるように、この物価高です。
ましてや、そんな苦労はもうないがごとく、政府は従業員の賃上げを要請してきます。
四面楚歌ですね。

さて、以前からお話ししていることで、繰り返しになりますが、もう一度お話しさせていただきます。

この中小企業の悲劇は、自然学校などにも少なからず影響を及ぼすと思います。
なぜなら、子どもたちの参加費を払ってくれる親御さんの多くは中小企業の従業員でしょう。その方々が経済的に困窮すれば、私たちの仕事も厳しくなることは間違いありません。

そのために、いま私たちがしなくてはいけないことは、なんでしょう。

コロナ禍で、ジャパンアウトドアネットワークが始めてくれましたが、生活困窮家庭の子どもたちに体験を届ける方法を作り上げないといけないということです。
先ほど、中小企業が倒産の憂き目にあっているとお話ししましたが、一方で、IT関係の会社は、業績を伸ばしていることも間違いありません。
いうなれば、貧富の差が拡大しているのです。
その現状をしっかり分析し認識して、どんな子どもたちも参加できるような、新しい仕組みを作らなくてはいけないのではないでしょうか。

例えば、参加費が一律ではないとか。
収入に合わせて、参加費が違うということです。
不公平と思われるかもしれませんが、富めるものは、貧しきものに手を差し伸べるということを、理解していただける方にご参加いただく。
高額で参加させること自体が社会的なステイタスになるような料金システムです。

または、生活困窮家庭の子どもには、補助金を用意して、安く参加できるとか。
地域の企業や、篤志家に働きかけて、成果をきちんと出し、その成果を報告していくことで、継続した寄付を集め続けるのです。

そんな方法で、できるだけ多くの子どもに参加してもらえるようにしましょう。

そして、どんな自然体験を提供すればいいのかも考えましょう。
コロナ前と同じ体験でいいのでしょうか?
コロナを経て、子どもが体験すべきことは同じでも、体験の仕方は変わってきたのではないでしょうか。
しかしその方法は、誰もわかっていません。
だって、コロナは世界中が初めて体験した未曽有の出来事だったのですから。

さて、どうしましょうか?
今までのように、外国の成功事例を待って、それをモデルに、真似しますか?
いつも思うのですが、外国と日本では生活習慣や、社会の仕組みが違うのに、どうして教育の方法だけをコピーして、うまくいくと思うのでしょうか。

子ども達は、家族との生活や、社会の仕組みの中で生きています。そのようなかかわりの中で、その環境の中での教育の方法を、独自に作り上げる時期なのではないでしょうか。
コロナで、家族で過ごす時間が増えました。ライフスタイルが定着したといってもいいかもしれません。
コロナの3年間で、大人数のキャンプを指導することができるリーダーの伝統は途絶えてしまいました。
ましてや、大学生リーダーは、今後つながることはとても難しいです。なぜなら、経験者は、この3年の間に、みな卒業してしまったからです。
学校教育の中での自然教室の位置づけは低くなっています。先生方の引継ぎもつながらなくなっています。大学生の伝統が失われたのと同じです。
そもそも、子どもが大人数で群れて遊ぶという習慣を失ってしまっています。

いやいや子どもの本性として、群れて遊びたいはずだと思いますね。確かにそうです。しかし、そこに行き着くための手間暇がかかるようになっているということです。

各家庭のトイレに温水洗浄便座が普及して、子どもが、ポットンの和式トイレが使えなくなったのと同じです。キャンプで無理やりポットン和式トイレを使わせればキャンプが嫌いになります。

コロナ禍で、教育の仕組みの中に、加速度的にタブレットなどのITが普及し、何かあれば、すぐにオンライン授業が可能になりました。
学校が終わったあとに、みんなで遊ぶということも少なくなりました。
今、子どもたちは、大人数で群れて遊ぶより、数人で小さく遊ぶ方が楽しいのです。
どうすれば、群れて遊ぶようにすることができるのでしょうか。
いやいや、それが本当に必要なのでしょうか。
自然体験の目的を達成するために、群れることが必要なのでしょうか。

どうすればいいか、私も答えがわかりません。
今こそ、新しい自然体験のプログラムを考えるタイミングなのではないでしょうか。